業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。そして、戦略コンサルティングファームはもちろん、事業会社でも、社内外の多様なチームで成果を出す「共創力」が必須となってきている。2022年11月24日(木)に、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏を講師に迎えて開催する「社内外の多様なチームで成果を出す共創力の高め方」セミナーでは、多様なチームを本質的にコラボレーションさせ、マネジメントするためのビジョンの策定、規律の設定、報酬の仕組みづくりなど、すぐに活かせる方法論を伝授していく。今回は、そのセミナーテーマに通じる「画期的アイデアを生み出すチームづくり」を考えるヒントとして、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書『超速で成果を出す アジャイル仕事術』から抜粋した本記事を再構成・改題してお送りする。(初出:2022年8月30日)
ゼロから構想することの難しさ
多くの企業では、これまでになかった新商品を開発したり、競合に勝つためのイノベーションを起こしたりするために様々な取り組みをしています。それでも、画期的なアイデアというのは簡単に思い浮かぶものではありません。
皆さんにも、次のような経験があるのではないでしょうか?
●社長から、好きなだけ資金を使っていいので、創造的な事業を考えるように言われたが、大した事業案は浮かばなかった
●会社の利益率が低下したので改善案を募るために目安箱が設置されたが、裏紙を使うことや役員の社用車を廃止するといったようなありきたりの案しか集まらなかった
●学校の先生から、これまでにない物語を書いてみるように言われたが、目新しい物語は全く浮かばなかった
我々は常に既知の情報をもとに思考しているため、ゼロから何かを構想することには慣れていません。ましてや、チームで何かを検討する際に原則が一切なければ、創造的な活動は困難を極めます。
遠足のおやつが500円までと決められていれば、最大限有効に使うよう資金配分を考えます。試験時間が45分であれば、より点数をかせげる問題を先に解くよう工夫をするように、元来人間は、制約があったほうが色々と考えて創造的になれます。
人事制度や研修制度が増えると、組織の老化は加速する
チームメンバーが創造的に動くというのは、好き勝手に動くことではありません。共創したビジョンを実現するために、一定のルールの中で貢献しない限り、メンバーのベクトルが合うことはありません。
ここで、原則と制度の違いを解説しておきましょう。
下図で整理しているように、原則というのはメンバーが活動をするためのプロトコルです。それに対して、制度というのはメンバーの行動自体に影響を与えるものです。
皆さんが大企業に属していれば、その組織には多くの制度が存在しているのではないでしょうか。評価制度、人事制度、研修制度など、制度と名のつくものは多数存在しているでしょう。そして、これらの制度が増えれば増えるほど、目線が社内に向き始めて外部からの刺激に鈍感になり、組織の老化は進んでいきます。
また、明文化されていないものであっても、慣習として社会や組織に定着している仕事の進め方などもすべて制度に分類することができます。
意図して定めたかどうかにかかわらず、制度ができることでチームの創造的な活動は、阻害されることになります。大企業に買収されたスタートアップが機能マヒに陥り、大企業のような意思決定スピードに陥ることもあります。
チームは原則で運営し、制度はできるだけ増やさないようにしましょう。
必要最低限のチームの原則を浸透させる
では、どのようにしてチームの原則を浸透させればいいのでしょうか。ここでは、数少ない原則を、具体的な行動レベルまで定義することをお勧めします。
例えば、私が過去に従事したある会社の再建では、①納期遅れ、②情報管理の不備、③部門間のコミュニケーション不足が問題になっていました。
ただ、これに対して①納期の遵守、②情報管理を徹底、③部門間コミュニケーションの強化といった原則を設定するだけでは浸透を図ることはできません。
私は、①すべての会議の時間を遵守する、②帰宅時に机の上に何もない状態にする、③出社時と帰宅時にあいさつをする、の3点を原則浸透のために徹底しました。これらを守れるまで徹底することで、メンバーが具体的な行動レベルで原則を理解することができ、チーム全体に原則が浸透しました。
例えば、①すべての会議の時間を遵守するためには、常に時間を意識する必要があり、会議時間に影響があるような要因に対しても敏感になります。このような習慣をメンバーが身につけることで、チーム全体として納期遵守ができるようになっていきました。
チームの原則が明確に定まっていれば、各メンバーが「アジャイル仕事術」を発揮して、自由な発想ができるようになります。チームの原則を浸透させる際には、抽象レベルで実現したいことを明確にした上で、具体的な行動を定義するようにしましょう。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。
2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。
現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
IGPIグループを日本発のグローバルファームにすることが人生の目標。
細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。
『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。