カジュアルさではなく
洗練された走りに
走らせてみればエンジン・チンクのようなカジュアルな軽快さはなく、いかにもバッテリーEVらしくしっとり落ち着いている。馬鹿みたいに凄まじい加速とも無縁(そこはきっとアバルト500eにとってあるのだろう!)で、いかにもパーソナルなシティコミューターというデザインにとても見合った乗り味だった。適度に重量感を感じさせつつ、さりとて路面に張り付きすぎたりせず、荒れた路面も綺麗にいなす。なるほど2020年の発売以来、ヨーロッパの都市部で人気というのもうなずけた。
首都高速でも試してみた。重いバッテリーを積んだEVはたいてい高速走行も安定する。けれどもその分だけ脚をしっかり作り込んでおく必要があって、しくじるとコーナーで床だけが動くような不安に襲われたり、前後の脚がつっぱったりしかねない。幸いにも500eにはそれがなかった。さほど大容量のバッテリーでなかった分だけ、適度に低重心を保ちつつ脚もよく踏ん張ってくれている。
乗用車としてまずは上出来、という点では従来のフィアット500と同様だ。そのうえ、随分と上等なクルマにもなっている。エンジン・チンクより走りはずっと上質。逆にいうと、チンクにしてはちょっと洗練され過ぎていて、あの底抜けに明るい友達感覚には欠ける。それもそのはず、500万円近くする“高級車”なのだった。
フィアットの「500e」のディテールをチェック
意外な魅力がもう一つあった。オープンモデルの存在だ。BEVのオープンカーというと初期のテスラロードスターくらいしかない。もちろんエンジンサウンドのシャワーを浴びることはできない。代わりに世間の様々な音を感じながら走ることができる。都会の喧騒から離れた自然の中なら随分と楽しいに違いない。おっと、そこまで長距離ドライブというなら向かないけれど。
写真=阿部昌也 文=西川 淳 構成=iconic