唾液はどこから出ているのか?、目の動きをコントロールする不思議な力、人が死ぬ最大の要因、おならはなにでできているか?、「深部感覚」はすごい…。人体の構造は、美しくてよくできている――。外科医けいゆうとして、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者が、人体の知識、医学の偉人の物語、ウイルスや細菌の発見やワクチン開発のエピソード、現代医療にまつわる意外な常識などを紹介し、人体の面白さ、医学の奥深さを伝える『すばらしい人体』が発刊された。坂井建雄氏(解剖学者、順天堂大学教授)「まだまだ人体は謎だらけである。本書は、人体と医学についてのさまざまな知見について、魅力的な話題を提供しながら読者を奥深い世界へと導く」と絶賛されている。今回は、「夏休みの自由研究」をテーマに著者が書き下ろした原稿を特別にお届けする。
自由研究は悩みのタネ
夏休みの宿題の中でも、多くの小中学生(及び保護者の方たち)が頭を悩ませるのが自由研究だろう。
実は、私には苦い過去がある。あれは確か小学5年生の頃だ。
夏休み最後の日になっても自由研究が終わっておらず、慌ててやり始めたはいいものの、夜中3時になっても完成しなかった。仕事から帰ってきた父が、最後まで資料の作成を手伝ってくれた。
そして翌日、始業式で校庭に長時間立たされるうち、寝不足の疲れから私は倒れてしまったのである。おかげで2学期初日の数時間を保健室で過ごすことになった。
何ともお恥ずかしい話だ。
駆け込みにオススメの医学ネタ
かつての私のように、いままさに自由研究をやり残して困っている人はいないだろうか。そんな方々に3つの「医学ネタ」を紹介しようと思う。
深い考察ができるテーマとは言えないが、自分の体一つで実験ができる。実験道具を買う必要もない。「駆け込み」にはちょうどいいかもしれない。
その1:指一本で立ち上がれなくする方法
おとなが相手でも、指一本使うだけで立ち上がれなくさせる。そんな実験だ。
まず、おとなの人に椅子に深く腰掛けてもらう。背筋を伸ばして正面を見てもらい、あなたの人差し指の先端で、相手のおでこの中央を軽く押しながら、立ち上がるよう指示してみよう。
きっと相手は立ち上がることができないはずだ。
実は、座った状態から立ち上がるには、頭を大きく前に出して前屈しなければならない。重い腰を浮かせるために、頭でバランスを取る必要があるためだ。
指でおでこを押さえられると、前屈できない。それゆえに、立ち上がれないのである。人の体がいかに重いかを体感できる実験である。
その2:足の指を触られてもどの指か分かりにくい?
目をつぶった状態で、誰かに手の指を軽く触ってもらおう。もちろん、どの指を触られたか瞬時に分かるはずだ。
では次に、足の指でも同じことをしてみよう。どの指かを当てるのは、手よりはるかに難しいはずだ。足の指は、手の指に比べて感覚が鈍感だ。少し触れたくらいでは、どの指か分かりにくいのである。
その3:ペンを使って「鈍感さ」を調べる
体の各部位で、感覚の鋭さの違いを調べる実験は他にもある。
目をつぶった状態で、誰かに2本のペン先を手のひらに当ててもらい、その間隔を徐々に縮めてもらおう。
ある程度近くなったところで、「1本で触れられているのか、2本で触れられているのか」が分からなくなる。この距離を「二点弁別閾」と呼ぶ。
指先や手のひらでやってみた後、背中でやってみるとどうだろうか。実は背中では4センチメートルほど離れていないと2点を判別できない。自分の背中のあまりの鈍感さに、きっと驚くだろうと思う。
全身のいろいろな部位で、この二点弁別閾を比較してみると面白いだろう。
人体を使ってできる実験は、他にもまだまだたくさんある。
関心のある方はぜひ、親子で一緒に『すばらしい人体』を読んでみてほしいと思う。
(※本原稿はダイヤモンド・オンラインのための書き下ろしです)