いつまでも健康でいるための体づくりとして、ジョギングなどの運動を日課にしたり、食事の栄養バランスに気を配ったりするのが、もはや当たり前になったといってよいだろう。人々の健康意識が高まっていくことで、医療はどんなふうに変わっていくのだろうか。『すばらしい人体』の著者で、ブログ累計1000万PV超、Twitter(外科医けいゆう@keiyou30)アカウント9万人超のフォロワーを持つ著者の山本健人氏に、未来の医療のあり方について聞いてきた。(取材・構成:真山知幸)
これからの医療
――もはや「健康ブーム」という言葉がそぐわないほど、運動や食事に気をつけるのが当然の世の中になったように思います。人々の健康意識が高まるなか、医療はどのような方向に向かいますか。
山本健人(以下、山本):これまで医学は病気に対してベストだとされている治療を患者さんに行ってきました。でも、全く同じ種類の病気でも、患者さんによって薬の効き方も違えば、進行の仕方も違うんですよね。それが生物の特性なんです。
これからはそんな個人個人の特性を理解して、個性に応じた治療を行う「個別化治療」が目指されていくと思います。
オーダーメイド医療の時代
――これからは、自分がどんな特性を持っているのかを踏まえたうえで、健康法やセルフケアを実践したり、病院にかかったりといった時代が来るわけですか。
2010年、京都大学医学部卒業。博士(医学)外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、がん治療認定医など。Twitter(外科医けいゆう)アカウント、フォロワーもうすぐ10万人。著書に16万部突破のベストセラー『すばらしい人体』(ダイヤモンド社)など。
山本:例えば、服を選ぶときに、サイズが細かくなれば細かくなるほど、自分の体形に合ったものが選べますよね。
それと同じで、個別の特性を細かくデータ化し、遺伝的な要因を踏まえて、より患者さんに合ったオーダーメイド医療が提供できれば理想的です。
将来、そんな個別データに応じて病気の診断や治療を行っていく時代が来るのではないでしょうか。
――現時点ですでにオーダーメイド医療が実現している病気はあるのでしょうか?
山本:特にがんの領域では、オーダーメイド医療が強く志向されていると思います。
がんは主に遺伝子の変化によって細胞ががん化することで起こりますから、遺伝子の特性を患者さんごとに調べ、それぞれに見合った薬を投与する、といったプロセスは、かなり実現性が伴ってきているんです。
実際、私もいま大腸がんのオーダーメイド医療に関する基礎研究を行い、論文を書いたり学会発表したりしています。
メリットとデメリット
――オーダーメイド医療を実現するにあたって、どんな障壁がありますか。
山本:医療技術は日々進歩しているので、それ以外でいうならば、やはりコスト面が問題になるでしょう。服でもS・M・Lから選ぶのと、オーダーメイドで仕立ててもらうのでは、後者のほうが高くなりますよね。
個人個人に応じた治療を行えば、よりコストがかかってしまう。今の保険診療は大きく変わっていかざるを得ないでしょうね。
――医療格差が広がるという問題点はどうしても出てきそうですね。そう考えると、やはり病気になる前の未病への取り組みが重視されそうです。
まずは人体の知識を持つこと
山本:『すばらしい人体』がこれだけ広く受け入れられているのも、そんな動きの一つかもしれません。健康法の実践に入る以前に、自分の身体への関心を持つ人が増えているのでしょう。
まずは人体に関する知識を十分に持ち、自分の身体と対話できる準備を整えることが大切です。『すばらしい人体』をそのためのツールとして活用してもらえればうれしく思います。