企業側の“専門スタッフ”の存在が、障害のある人の就労を定着させていく

法定雇用率のアップとともに、民間企業で働く障害者が増えている。障害当事者の就労のカギを握るのが、就労支援機関と企業における人事担当者の存在だが、昨今は、企業が配置する“専門スタッフ”も重要になっている――コロナ禍での採用から職場定着の方法まで、一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会の代表であり、中小企業から大企業におよぶ3500社以上の障害者雇用を見てきた清澤康伸さん(医療法人社団欣助会 吉祥寺病院)に話を聞いた。(ダイヤモンド社 人材開発編集部、撮影/菅沢健治)

*本稿では「障がい」を「障害」という表記に統一しています。

企業による障害者の雇用は増え続けているが…

 厚生労働省の「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」によれば、昨年2021年(令和3年)6月時点の民間企業の雇用障害者数は59万7786.0人。前年同時期から約2万人の増加となった。また、今年2022年(令和4年)6月に公表されたハローワークの集計値*1 でも、障害者の就職件数は前年比7.1%増となっている。そうした数字の一方で、新型コロナウイルスの影響による“解雇”もあるようだが……。

*1 厚生労働省「令和3年度 ハローワークにおける障がい者の職業紹介状況」より。

清澤 ハローワークなどの報告から、勤め先の事業所の意向や店舗の閉店によって、コロナの影響で解雇された方がいらっしゃることが分かります。求人も減っていましたが、昨年(2021年)末くらいから復調してきている実感があります。

 障害者雇用に関する公的なデータのうち、私は、障害福祉サービス事業所*2 利用者の“就労移行率”の推移に注目しています。たとえば、就労移行支援事業所*3 からの就労移行率は2015年(平成27年)から右肩上がりで、2018年(平成30年)には50%を超えたものの、2020年(令和2年)に数字を下げました。これは、就労移行支援事業所だけではなく、就労継続支援A型事業所と就労継続支援B型事業所も同様です。数字が下がったのはコロナの影響もあるのではないかと推測しています。2020年(令和2年)までの就労率の上昇については、就労移行支援事業所自体の数が2018年(平成30年)をピークに減っていることも要因のひとつではないかと推測されます。就労移行支援事業所の減少が、結果的に就労率の向上につながったのではないでしょうか。厚生労働省発表の数字を見ると、民間企業による雇用人数はたしかに増え続けているのですが、障害福祉サービス事業所の就労移行率の変化は気になるところです。

*2 ここでは、就労移行支援事業所・就労継続支援A型・就労継続支援B型を指す。
*3 就労移行支援事業所は、障害のある方の一般企業への就職をサポートする福祉サービス施設。通所型が一般的。

 障害者の就労状況について、清澤さんは、全国の数字と東京都の数字を比較しながら解説を続ける。

清澤 民間企業が雇用している障害者の人数は、2021年(令和3年)の数字*4 では、全国での前年差がプラス1万9494.0人、東京都での前年差がプラス8039.5人で、東京都だけでかなりの人数を占めています。さらに東京都の数字を見ると、障害福祉サービス事業所を利用せずに就労されている方が一定数います。これまでは、就労移行支援事業所といった障害福祉サービス事務所を経て就労される方が一般的でしたが、それが変わってきている印象を受けます。先ほどの話に戻りますが、就労移行支援事業所からの就労移行率が下がったにもかかわらず、就労者が増えているというのは、就労移行支援事業所を利用せずに就労している方が増えているからでしょう。特別支援学校、市区町村の就労支援センター、障害者就労・生活支援センターを経ての就労のほか、ハローワークの求職情報からダイレクトに就労に至る方、医療機関で就労支援を受けた方もいらっしゃいます。また、就労移行率について言えば、2020年(令和2年)の全国数字は53.4%ですが、東京は38.4%というふうに開きがあります。障害者雇用の実態は、東京などの大都市と地方ではかなりの違いがあることも念頭に置くべきでしょう。

*4 厚生労働省「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」、東京労働局「令和3年 障害者雇用状況の集計結果」より。

清澤康伸

清澤康伸 (Yasunobu KIYOSAWA)

一般社団法人 精神・発達障害者就労支援専門職育成協会 代表理事(ES協会)
医療法人社団欣助会吉祥寺病院

国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター(NCNP)時代より職場開拓、支援プログラム、就労後の定着支援、定着後のキャリア支援、企業支援などをワンストップで行う医療型就労支援モデルの構築を行う。新しい就労支援の形である清澤メソッドを考案。NCNPを経て現職。これまで10年間で350人以上の精神、発達障害者の一般就労を実現する。就労プログラム履修者の就労率92.7%、1年後の職場定着率95.0%は国内トップレベル。就労プログラム開始から一般就労までの平均6カ月。自身の就労支援の経験から支援者の人材育成が急務と考えてES協会を立ち上げ、支援者の育成にも力を注ぐ。そのほか、企業、公的機関におけるセミナーや講演、学会発表なども多数行っている。国内における精神・発達障害者の医療型就労支援のパイオニアであり、第一人者。講演、セミナーの依頼はES協会まで。