就労の「仕組み作り」と就労支援機関の存在価値
障害者の職場定着のためには、然るべき労務管理や制度設計の土台となる企業側の「仕組み作り」が必要だと清澤さんは説く。
清澤 たとえば、規模の大きい企業では、人事部などに障害者雇用の担当者がいらっしゃいますが、異動や退職でその方がいなくなった場合にノウハウの引き継ぎがうまく行われず、社内の障害者雇用の水準が下がってしまうことがあります。障害者雇用が担当者次第になってしまうからです。それを防ぐためには、担当が変わっても大丈夫な「仕組み作り」が必要ですが、その「仕組み作り」ができていない企業が多いですね。逆に言えば、「仕組み作り」ができている企業ほど、障害者雇用がうまくいっていて、定着率も高い印象があります。
具体的には、どのような「仕組み作り」なのか。
清澤 「フルタイムで働けない」という障害のある方が多いです。そこで必要なのが、たとえば、「週20時間からスタートし、□□のタイミングで30時間まで伸ばし、○○ができるようになったらフルタイムで働いていただこう」といった勤務時間の「仕組み作り」。また、業務内容の「仕組み作り」も大切です。職場環境や仕事に慣れるまでに時間がかかることもありますから、最初は軽微な業務*12 からスタートして、本人のスキルや適性を把握しながら業務内容を深化させたり、業務の幅を広げていき、成長を促しつつ、最終的には任せる仕事や担当する仕事を増やしていくといった「仕組み作り」です。
*12 既存の従業員に対し、「自分が行っているが自分でなくてもよいと思われる業務」について聞き、その結果から抽出した業務など。
障害者雇用の担当者をはじめ、人事部の従業員はさまざまな業務に追われ、相談する相手も少なく、仕事が属人的なものとなり、組織のなかで孤立していくことも多いと聞くが……。
清澤 精神障害のある方は、症状が安定していても、急に心身の調子を崩すケースがあります。企業側はそうした場合のマネジメントを考え、適切な対応をとっていく必要があります。障害者雇用の担当者に任せきりではいけません。重要になるのが、就労支援機関*13 との付き合いです。就労支援機関は、民間企業やNPOなどさまざまありますが、まずは、就労支援機関の担当者が、障害のある人それぞれの症状と調子の悪くなるサイン、その時にどのような対処をすると早期にリカバリーできるのか、不調時には周囲から見たらどのような状態になるのか、その時に周囲はどのような対応をしたらよいのかを把握しておくことが必要です。企業側の担当者に一般的な知識があっても、精神障害のある方は個人差が大きいので、なかなか対応しきれません。企業にとって大切なのは、就労支援機関を「活用」すること。二人三脚としての活用です。「支援機関があるから大丈夫!」ではなく、就労支援機関が定着支援を行う期間中*14 に、障害のある方への個別対応のノウハウを習得しなければいけません。「Aさんはどういうときに調子を崩しやすいか、ストレスを感じやすいか、調子を崩したときにはどういう対応をすべきか」を、企業側が就労支援機関の力を借りて理解し、ノウハウを蓄積していくのです。
*13 障害者就業・生活支援センター、障害者就労支援センター、ハローワーク、就労移行支援事業所、地域障害者職業センターなど。
*14 就労定着支援を行う事業所による支援期間は最大3年。就労後6ヵ月間は、障害者が利用していた事業所によって定着支援が行われる。