「命を守るDX」宮城県のコロナ対策には東日本大震災の教訓が生きていた写真はイメージです Photo:PIXTA

2020年12月、東北大学病院は新型コロナウイルス感染症の第3波と戦いながら、ホテルなどの宿泊療養施設で使用するレントゲン・採血・心電図などの検査連携システムを開発していた。さらに紙での患者管理を電子化し、大幅な業務効率化を果たした。特筆すべきは、極限状態でこれらを内製、つまり自分たちの手で実装したことだ。過酷な医療現場で医師とIT責任者が二人三脚で挑んだ、命を守るDX。その裏側を聞いた。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

高山病に似た低酸素状態、想像以上に過酷な現場

 宮城県で陽性者が急増し、入院の受け入れ制限が始まったのは、第3波に当たる2020年12月のことだ。本来ならば入院となる患者もホテル療養を余儀なくされ、容体の急変が相次いだ。東北大学病院は宮城県と連携し、医療機能を強化した宿泊療養施設を整備した。

 現場は医師が想像していた以上に過酷だった。宿泊療養施設で診察に当たる医師・東北大学病院 高山真准教授(以下、高山医師)は、高山病に似た低酸素状態で、1日約6時間に及ぶ診察を続けたと振り返る。

第3波にあたる2020年12月頃の新型コロナ宿泊療養施設での往診の様子第3波に当たる2020年12月頃の新型コロナ宿泊療養施設での往診の様子。感染エリアでの記録用紙は持ち出し不可のため、往診後に着替えてから電子カルテに入力していたという 写真提供:東北大学病院

「初めは感染エリアにiPadを持ち込み、患者の情報を入力するつもりでした。しかしフェイスシールドで視界が悪い上、Wi-Fiの速度が遅く、『咳がある』と入力しても『せ、き、が、あ、る』という状態。加えて、医療用のN95マスクは10分もすると息が苦しくなります。1人診察してiPadに入力したら、もうふらふらなのです。そこで、感染エリアでは紙に診察記録を書き、外に持ち出せないので写真を撮り、後で大学病院の電子カルテに再入力することになりました」