「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。
経営戦略論の第一人者であり、慶應大学ビジネススクールの清水勝彦教授も、本書が説く内向型のリーダーのあり方に共感を寄せる。清水教授に、リーダーや内向型に大切なことについて語っていただいた。(取材・構成 小川晶子)
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「豪胆な上司」を目指さなくてもよい理由Photo: Adobe Stock

「ただ発信する」だけでは意味がない
──相手の話を聞いているか?

――『「静かな人」の戦略書』では、相手の話に耳を傾けられる内向型リーダーの良さについて触れられていました。「内向型は観察の達人で、行間を読むことに長けている」との記述もありました。「聞く力」は内向型リーダーの武器になると思われますか?

清水勝彦(以下、清水):「聞く力」は非常に重要です。

 リーダーは発信力が重視されることが多いのですが、発信するだけではダメです。伝わらなければ意味がありません。

 それでは、しっかりと伝えるためにはどうすればいいか。

 相手がどういう考えを持っているか、どういう気持ちでいるかを知ることが必要です。相手の話を聞くからこそ、伝わる話ができます。相手の話を聞かず、反応もよく見ずに一方的に話しても話は伝わりません。

 ですから、内向型リーダーが聞く力を持っているのなら、それは強みになるはずです。

 ただ、「才能がある」ことと「才能を生かす」ことは違います。聞く力を持っていても、「リーダーは発信力こそが大事なのだ」と思いこんでいると、聞く力を十分に生かせていないかもしれません。リーダーは相手の声に耳を傾けることが大事だと意識して、積極的にコミュニケーションをすることが重要です。

観察力の重要性

──先生は「聞く力」とともに、リーダーにとっての「観察力」の重要性も強調されています。『「静かな人」の戦略書』では、内向型は「観察力に長けている」という記述がありました。

清水:これも「聞く力」と同じで、「観察力がある」「細部によく気がつく」という能力があるなら、それを生かすことが大事です。部下が困っていることに気がついたら助け舟を出す、組織の仕組みでうまくまわっていない部分に気がついたら変える、といった具体的なアクションにつなげることが大切です。

――「リーダーはあまり細かいことを気にしないものだ」という思い込みがあると、気づいたことでも心の中に秘めてしまうかもしれないですね。

清水:コンサルタント時代に、ある会社の部長さんがこう教えてくれました。

「豪胆なリーダーというのは良いけれど、神経が太いのと粗いのは違う」

 鷹揚で、いかにも豪気に見えるリーダーも、ただ「粗いだけ」なのかもしれません。それはリーダーとしてあまり良いとは言えません。観察力があり細かいことに気づけるうえで、どっしりと構えていられるのであればすばらしいと思います。

 それから、「神経が細かいのと細いのも違う」。神経が細いと頼りないですが、神経が細かく、細部に目配りをできるのはリーダーとして大切なことです。

 たとえばトラブルの兆候は、多くの人が見逃してしまう小さなものでしょう。それに気づき、手を打つことができるのは良いリーダーの資質です。

 細かいところに気づく力があるなら、気づいた次にどうするか。アクションこそが大事なんです。

――『「静かな人」の戦略書』では、内向型の「聞く力」や「観察力」について、「ほかの人たちから見ると、内向型は不思議なほど、他人の考えやニーズがよくわかるらしい」という記述がありました。内向型は、そうして細部に気づいた結果、「どう具体的なアクションに移すか」を意識していく必要がありますね。

>>次回「部下の『やる気を引き出すリーダー』『削ぐリーダー』の決定的な違い」に続く