なお、経験は三者三様であるし、大臣等も十人十色であるので、異なる見解をお持ちの方もい得るということは、あらかじめご了解いただきたい。

大臣の能力に関するマニュアルの存在も

 まず、大臣対応マニュアル的なものはこれまで存在したことがないのかといえば、文書化されているか否かにかかわらず、存在した。大臣も人間である。どんな人格者と言われる人でも喜怒哀楽はあるし、好き嫌いもある。一般人と同じように絶対に譲れない点や苦手なものもある。性格は当然それぞれ異なるし、秘書官やレクを担当する原局の役人との相性もある。

 したがって、円滑に事務が遂行できるようにするためには、大臣のパーソナリティーを踏まえた対応が必要となる。そのために大臣の性格、特徴、嗜好等の人となりが大臣に近い立場の役人に伝えられ、共有される。大臣レクや決裁を担当する職員にも当然共有されるし、不測の事態に備えて秘書官(事務)が事前の「露払い」を行う(場合によっては大臣より秘書官〈事務〉の方が大臣より強権的というか、厳しい対応をすることさえある)。

 その際に秘書官からも対応についての助言が行われることもある。言ってみれば口頭の対応マニュアルのようなもので、それを踏まえて業務用のメモが作成されてそれが共有されたり引き継がれたりすることもある。

 出張への随行の場合も、出張に際しての注意が口頭で伝えられるし、先ほどと同様に、あくまでも個人のメモとして対応マニュアルが作成されることもある。大臣ではなく幹部出張随行の際にも、注意というより親切心から当該幹部の癖や注意点(酒の好みといったものまで)について伝えられることもあるから、いわんや大臣をやである。

 また、大臣の能力に関し、マニュアルが必要となる場合もあり得る。一を聞いて十を知るとまでは言わないものの、役人の説明に対してのみ込みの早い大臣もいれば、理解に時間のかかる大臣もいるし、漢字の苦手な大臣もいる。そうなれば大臣に合わせて資料等を作成する必要が出てくるので、大臣ごとに資料の作成の参考とすべき手引書のようなものが作成されることもあれば、助言として口頭で伝えらえる場合もあり得るのである。

 次に、西村大臣同様に注意を要する大臣はこれまでいなかったのかといえば、当然に存在した。大臣決裁について説明していた担当の役人に決裁文を板(決裁文書を挟んである板)ごと投げつけた大臣もいたようであるし、メモの音がうるさいと怒鳴りつけた大臣もいたようであるし、気に食わなければ説明の途中で退出させる大臣もいたようであるし、局長以下に権限が下りている細かな決裁についてまで全て大臣決裁にしろと現場を混乱・停滞させた大臣もいたようである。極端な例で言えば、公務での大臣の移動に、秘書官は当然同席するので車での移動の場合は大臣車に同乗することになるが、車内でせきをしていた秘書官に「風邪がうつるから車から降りろ」と高速道路の途中で無理矢理下車させた大臣もいたそうである。