注意が必要な「カーブアウト」案件

 また初回で述べた「ガン・ジャンピング規制」(各国の競争法への抵触の恐れ)もDDにおいて注意が必要です。国内外の競争法に抵触の恐れがある場合、対象国からクリアランス(合併およびそれに向けた交渉をしてもよいというお墨付き)を得られるまでは、ガン・ジャンピングを警戒する売り手企業の意向もあって、事業の実態をよく知る買い手の事業部門等のスタッフは、DDの実務やサポートに加われないことが一般的です。

 とはいえ、時間を無駄にはできないので、経営企画部門のスタッフやアドバイザリー契約を結んだ専門アドバイザリーのメンバーが、競争機微情報に関与しない「クリーンチーム」として参加し、可能な範囲でDDを行います。

 その場合、「特定商品の利益率や得意先別の売上比率」といった競争機微に触れる情報はストレートに聞き出しにくいため、例えば「対前年比でどうか」「売上上位10社はどこか」といった遠回しの質問を重ね、外部データやヒアリング結果などから事実を類推するといった、臨機応変な対応力が必須です。

 このほか、「カーブアウト」と呼ばれる案件も、DDで注意が必要です。カーブアウトとは、売り手企業を丸ごと子会社化(または吸収合併)するのではなく、一部の事業部門のみを切り出して買収する形態です。事業の選択と集中や特定事業分野の強化のため、必要(または不必要)な要素のみを売買したいというニーズが高まっているためです。

 対象会社を子会社化するM&Aの場合、うまく運営できている対象会社の仕組み等をドラスティックに変える必要はありません。時間をかけて買い手企業の仕組みやカルチャーに寄せていくこともできるでしょう。しかし、カーブアウトのM&Aでは、クロージングの翌日から業務を滞りなく進める必要があります。従業員の保険証、社員証、メールアドレス等はいうに及ばず、在庫管理や検品、出荷等の作業が新体制の元でも問題なく運用されなければなりません。

 また、買収対象の事業部門のITシステムを、売り手企業の別部門が管理していることが多く、そうした場合は、例えば事業買収後も1年程度は売り手の会社のシステムを借りる契約を事前に交わしておくといった対策が必要になります。

 さらにカーブアウト案件では、対象事業に必要な特許等の知財を、売り手本社や売り手の親会社が管理していることがあります。こうした点にも念を入れて、知財等の必要なDDを漏れなく行わなくてはならないのです。