北海道新幹線を巡る
もうひとつの貨物撤退論

 実は北海道新幹線を巡り、もうひとつの「貨物撤退論」が存在する。その背景にあるのが、現在、新幹線と貨物列車が共有する青函トンネルの速度制限の問題だ。

 青函トンネル構想は戦前から存在したが、1950年代に入って構想が具体化し、1961年に着工した。当初は在来線規格で設計されていたが、掘削途中の1971年に将来、新幹線が走行可能な設計に改められた。

 27年の工期を経て青函トンネルは1988年3月に開通し、当面の間は在来線の旅客、貨物列車が使用することになったが、1996年に整備新幹線として北海道新幹線新青森~札幌間の整備計画が策定。新幹線と貨物列車が共有する方針が示された。

 北海道新幹線新青森~新函館北斗間は2005年に着工。青函トンネル約54キロを挟む前後区間約82キロは、新幹線の用いる標準軌と在来線の狭軌いずれの列車も走行できる三線軌条方式で整備することになった。

 だが新幹線と在来線の線路共有は簡単な問題ではなかった。新幹線の安全性は、道路交通(踏切)や在来線から全く独立した専用の線路を走行することで保たれている。ところが、在来線の列車事故発生率は100万キロ当たり0.012件で、新幹線の同0.001件に対し10倍以上高く、貨物についてはさらに高い。

 特に危惧されたのが地震時の対応だ。交通政策審議会の整備新幹線小委員会が2012年4月にとりまとめた「収支採算性及び投資効果の確認」では、青函共用走行区間について「在来線(貨物列車、引用者注)は大規模な地震が発生した際に貨物が荷崩れ・散乱する可能性を完全には否定できない」と指摘している。

 速度が上がるほど運動エネルギーは大きくなるため事故時の被害も大きくなる。地震で落下したコンテナに時速260キロで走行する新幹線が衝突したら大惨事となるのは間違いない。また時速260キロの新幹線と時速100キロ程度の貨物列車がすれ違うと風圧でコンテナが荷崩れを起こしたり、変形したりするリスクも指摘された。

 そのため2016年3月の北海道新幹線新青森~新函館北斗間の開業にあたって、青函トンネルを挟む前後区間約82キロは、それまで青函トンネルを走行していた在来線特急「白鳥」と同様の最高速度時速140キロに制限することになった。

 しかし巨額の建設費を投じて建設する高速鉄道の速度を制限するというのはナンセンスだ。供用区間の最高速度が時速140キロに制限されると、東京~新函館北斗間の所要時間は時速260キロ運転と比べて18分余計にかかる。

 このままでは東京~新函館北斗間の所要時間は4時間、東京~札幌間は5時間を超える見込みで、投資効果が大幅に低減してしまう。そこで開業から当面は減速運転を実施するものの、できる限り早い段階、遅くとも札幌延伸開業までに供用区間の速度向上を実現しようという検討が始まった。