米国で1960年代に放送が始まり、日本でも『宇宙大作戦』のタイトルで親しまれた『スター・トレック』。人類が宇宙に進出し、異星人とも友好関係を構築している22~24世紀の未来を舞台に、多様性の高いチームでさまざまな課題を解決していく。『SF思考 ビジネスと自分の未来を考えるスキル』の編著者である宮本道人氏は、そんな本作の世界観に、現代に通じるテーマが色濃く含まれていることを指摘する。(構成/フリーライター 小林直美、ダイヤモンド社 音なぎ省一郎)
「ウフーラ」が切り開いた新しい世界
宇宙……それは、最後のフロンティア――。
そんなナレーションとともに、宇宙船がゆったりと宇宙へこぎ出していく……。『スター・トレック』は、1966年に米国でテレビ放送がスタートしたスペースオペラの古典だ。現在までにドラマ8本、アニメ3本、映画13本が制作されており、劇場版では2016年公開の『スター・トレックBEYOND』が、ドラマでは22年にスタートした『Star Trek: Strange New Worlds』が最新作となっている。半世紀以上にわたって新作が生み出され続けているのだ。
原点となったテレビドラマシリーズは、日本でも『宇宙大作戦』のタイトルで放送された。行動力のあるカーク船長、冷静沈着なスポック副長、ちょっと皮肉っぽい医療主任のマッコイ……。SFに興味がないという人も、キャラクター名ぐらいは聞き覚えがあるのではないだろうか。
この超有名SFを、ここで改めて取り上げたいと思ったのは、今年7月にアフリカ系米国人の女優、ニシェル・ニコルズの訃報が飛び込んできたからだ。彼女は、『スター・トレック』のオリジナルキャラクター「ウフーラ」という女性乗組員を長年演じた人物である。その死が大きなニュースになったのは、彼女が、ただ「与えられた役を演じた」だけでなく、社会に大きな影響を及ぼしたからだ。
『スター・トレック』の放送が始まった66年は、人種差別を禁止する公民権法が成立したわずか2年後だ。人種的な偏見はまだ根強く、黒人女優がドラマのレギュラーとして活躍すること自体が異例だった。そんな時代に、まだ現実に存在しない「黒人女性宇宙飛行士」として颯爽と働くウフーラの姿は、どれほど視聴者を驚かせたことだろう。68年には、ウフーラとカークのキスシーンが放映されており、「異人種間のキス」が、テレビのタブーを破る表現として話題になった。