(2)宿泊施設の直販の増加

 宿泊施設は、OTAとサイトコントローラーの両方に利用料を支払っている。経営の効率化を求め、自社サイトを持つ大手ホテルチェーンは、どこよりも安い価格を保証する「直接予約キャンペーン」を実施するなどして、自社のウェブサイト経由での予約を増やす取り組みを強化してきた。こうした傾向が強い米国では、2023年までにオンライン直販が宿泊予約サイトの売り上げを抜くとの予測もある。(*4)

(3)サイトコントローラー間の競争激化

 宿泊施設の直販だけでなく、サイトコントローラー間の競争も激化している。宿泊施設にとっても、OTAにとっても、サイトコントローラーが何社も存在する必要はなく、信頼できる2~3社があれば十分である。機能が単純・明確なだけに、サイトコトローラー間で、生き残りを目指した競争が激しくなることは、必至である。

(4)システムの複雑化

 日々進化するOTAと宿泊施設のシステムを繋ぐことは、技術的に簡単なことではない。利用する宿泊施設が増えれば増えるほど、サイトコントローラーの運営側の業務は複雑化し、管理の難易度は上がる。万一サイトコントローラーに不具合が発生すれば、宿泊施設はOTAに直接ログインし、予約状況をアップデートしなければならない。

 手間いらずの渡邉哲男社長も、「開発人材は不足気味で、1年先まで仕事が埋まっている状況」(*5)という。サイトコントローラーとして成長すればするほど、システム障害などが起きれば「関所」としての機能を果たせなくなるリスクが高まる。

(*5)注1と同じ

拡大を続けるネット予約
次に“関所”が生まれる業界は?

 ネット予約が普及した現在、複数の宿泊予約サイトの情報を一括管理できる“関所”としてのサイトコントローラーは、多くの宿泊施設にとってなくてはならない存在となってきた。一方、今後は多くの宿泊施設が自社ホームページ上での予約機能を持つようになるだろう。宿泊施設が「顧客と直につながりたい」と願うのは、自然な流れである。大型宿泊施設で起こりつつある直販強化の戦略が、今後業界にどの程度広がっていくのかに注目したい。

 2021年の調査(*6)によれば、ネット予約を利用者したことが多いトップ5は、宿泊施設(61%)、交通機関(51.7%)、飲食・レストラン(46%)、医療機関(42.4%)、旅行・ツアー(39.7%)であった。

 本稿では宿泊業界に焦点を当てたが、航空業界ではもっと以前から航空会社と旅行代理店をつなぐサイトコントローラーのような業態が存在し、それはGDS(Global Distribution System)と呼ばれてきた。また飲食業界でも、「食べログ」「ぐるなび」などを通じた飲食店のネット予約の普及に伴い、サイトコントローラーが誕生している。

 ネット予約は今後、ビジネスモデルが変革しつつある他業界でも広がる可能性があり、新たな“関所”が生まれてくるかもしれない。

(早稲田大学ビジネススクール教授 山田英夫、ビジネスライター、リサ-チャー 牟田陽子)