穀倉地帯を走る真岡鐵道穀倉地帯を走る真岡鐵道 Photo by Yohko Yamamoto

全ての酒を高品質に!老舗蔵の16代目が醸す地の酒

 関東平野北部の栃木県真岡(もおか)市は、イチゴと米の栽培が盛んな地で、真岡鐵道のSL目当てに鉄道ファンが集う。そのSLの汽笛が聞こえる酒蔵が辻善兵衛商店だ。近江商人の辻善兵衛さんが真岡の水に魅せられ、1754年に酒蔵を開業した。今、酒造りを担うのは16代目の寛之さん。鬼怒川水系の伏流水が敷地内の井戸から豊富に湧き、「真岡は海も山もないけれど、いい水がたくさんあります!」と笑う。創業時からの銘柄は「桜川」で、寛之さんが立ち上げたのが全量純米酒の「辻善兵衛」だ。酒造りでは精米から上槽まで全てを担い、全国新酒鑑評会で8年連続金賞という快挙を遂げる。

 高級酒は丁寧に造るが、経済酒と呼ばれる普通酒は、原料米や工程でコストを下げるのが一般的。だが、寛之さんは一から見直し、吟醸で培った技術を全ての酒に応用する。中でも、酒離れする若者に向けて開発した酒「PREMIUM S」は、爽やかな清涼感に溢れ、スルスルと喉を落ちる美しい酒。原料米に山田錦など高級酒米を用い、火入れ後に急速冷蔵してフレッシュ感をキープ。それが4合瓶で約1000円と革命的だ。

 酒造りの考えは、祖父、父から伝わる三方良しの精神にあるという。値段的に厳しい葬式用の注文でも、「葬式の酒こそおいしくしたい」と、吟醸酒を小瓶に詰めて納品する。「売り手と買い手と、地元良しの酒造りを続けたい。もっとおいしくなるように、改良を続けます!」。地の酒の本質を極め続ける。

辻善兵衛 純米大吟醸 夢ささら辻善兵衛 純米大吟醸 夢ささら
●辻善兵衛商店・栃木県真岡市田町1041-1●代表銘柄:辻善兵衛 純米大吟醸、辻善兵衛 辛口純米酒、桜川 大吟醸、PREMIUM S●杜氏:辻 寛之●主要な米の品種:五百万石、夢ささら、山田錦、雄町