資本主義が民主主義に与えた影響とは?
――歴史を振り返ると民主主義と資本主義が相互に関係し合ってきたことを、本書では度々指摘していますね。
岩本 そうですね。過去には、資本主義が民主主義の発展を助長した時期もありました。資本主義が物質的豊かさを生み出したことで分厚い中産階級が生まれ、民主主義の素地を築いたという考え方です。さらに、労働組合や社会保障の充実などによって守られた労働者による大衆運動は、市民社会の発展に寄与したとも言えるでしょう。
――ただ、冒頭でおっしゃっていた内容を踏まえると、現在は、貧富の格差の拡大などを招く資本主義は民主主義にあまりよい影響を与えていないようにも感じました。
岩本 おっしゃる通りです。最近では資本主義は格差の拡大という形で、民主主義に対してマイナスの作用が目立つようになりました。また、資本主義が生み出す金融危機が社会や経済の混乱につながり、民主主義を足元から揺るがしていることも事実です。日本におけるバブルの崩壊や世界的なリーマンショックなど、資本主義がもたらしたショックが、政治の舵取りに大きな影を落としたことはいうまでもありません。
――資本主義が民主主義に与えた影響で、象徴的な出来事はありますか。
岩本 アメリカのトランプ前大統領の誕生は、象徴的な出来事だったといえるのではないでしょうか。資本主義の競争社会に取り残された人々の心情を巧みに掬い取り、選挙で歴史的な勝利を収めました。
トランプ前大統領だけではありません。南米やヨーロッパでも国民の不満や怒りを利用したポピュリズム(大衆に迎合して人気をあおる政治姿勢)的指導者の台頭が見られます。資本主義の暴走をコントロールできない、いまの政治に対する国民の不満により、専制主義的な指導者が各国で生まれているという側面はあると思います。