民主主義は経済成長を後押ししない?
――資本主義が民主主義に影響を与えている状況は理解しました。逆に、民主主義は資本主義にどのような影響を与えているのでしょうか。
岩本 ここ20年間のデータからは、民主主義が経済成長にマイナスの影響を与えている可能性が示唆されています。例えば、中国は言うまでもなく、中 東やアフリカの専制主義の国々の成長率も、最近では各民主主義国家のそれを上回っているのです。
30年前まで、「経済成長のためには民主化が不可欠だ」といわれてきました。しかし、現在ではもはや経済成長のために民主化が必要だというロジックは通用しなくなっているのです。厳しい表現ですが、経済成長という飴を餌にして、新興国に民主化を求めることはできなくなっています。
――民主主義が経済成長に寄与しないとすると、ある種、資本主義と民主主義はお互いに負の影響しか与え合っていないということになるのでしょうか。
岩本 お伝えした通り、資本主義は勝者総取りで、格差拡大を後押しする機能を持っています。一方で民主主義は平等と分配を後押しする機能だと思うんです。そういう意味で、資本主義と民主主義は性格的に真逆の作用を持つ制度として、補完し合う関係性であるという見方もできるでしょう。
実際に、民主主義と資本主義を共存させ、共に発展させている国もあります。例えば、北欧はうまく資本主義の暴走を抑えるような制度設計をしているように思います。一方で、イギリスやアメリカは資本主義のマイナスの側面よりもプラスの側面を軸に制度設計をしている。つまり、資本主義の持つ活力をどの程度発揮させるのかを調整するのが民主主義だという見方はできると思います。
――グローバルにビジネスが広がっている今、各国の民主主義と資本主義がどういった関係性になっているのかを知ることは非常に重要なことだと感じました。
岩本 その通りです。政治と経済、民主主義と資本主義が相互に影響し合っている現状を考えると、資本主義の中で戦うビジネスパーソンにとって民主主義の理解は大切だと思います。
民主主義の歴史というのは、現在に通ずる政治の歴史と考えても間違いではありません。過去を知ることで、政治が今後、どのように変わっていくのかを理解しやすくなります。そうすれば、経済や社会がどのように変化していくのか、その見通しも立てやすくなるのではないでしょうか。
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