民主主義と資本主義はセットで語られることが多い。しかし、それらがどのような関係性になっているのか、またどう結びついているのかについて語れる人はそう多くはないのではないだろうか。政治に関心がない方の中には、「自分には関係ない!」「今さら学んでも意味があるの?」と思う方もいるだろう。そこで、今回はビジネスパーソンが知っておきたい、民主主義と資本主義についてお届けしたい。『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史 ビジネスパーソンとして知っておきたい教養』の翻訳者・岩本正明さんにお話を聞いた。(取材・構成/佐藤智)
ビジネスパーソンには民主主義の理解が不可欠になってきた
――『世界でいちばん短くてわかりやすい 民主主義全史 ビジネスパーソンとして知っておきたい教養』というタイトルにあるとおり、ビジネスパーソンも教養として民主主義の通史を理解する必要はあるのでしょうか。
岩本正明(以下、岩本) はい。知っておくことで、経済の仕組みへの理解がより深まるはずです。ビジネスパーソンの方の主たる関心である目の前の営業成績の向上やサービスの改善に、民主主義の通史の理解が直接役立つことは少ないでしょう。ただ、より俯瞰した視点でビジネスや経済を見る立場となった際には、政治や国際情勢に対する理解が不可欠になってきます。そうした知見をベースに、意思決定が求められることもあるでしょう。
1979年生まれ。大阪大学経済学部卒業後、時事通信社に入社。経済部を経て、ニューヨーク州立大学大学院で経済学修士号を取得。通信社ブルームバーグに転じた後、独立。訳書に『FIRE 最強の早期リタイア術』(ダイヤモンド社)などがある。
――たしかに、つい現場の業務に追われてしまいがちですが、ビジネスは世界の政治と切り離せないものですよね。
岩本 おっしゃる通りです。政治と経済は切り離せません。マルクスは経済を下部構造、政治や社会を上部構造として、上部構造は下部構造に依存しているという唯物史観を示していました。
現実社会を見ても、資本主義は民主主義に、民主主義は資本主義に影響を与え合っていますよね。
――イメージではわかるのですが、具体的にどう影響し合っているのでしょうか。
岩本 本書では、現在の民主主義に対する不満の多くは、貧富の格差の拡大に行き着くということが指摘されています。言うまでもなく、貧富の格差拡大は現在の資本主義システムの構造によって生み出されています。つまり、資本主義は大きく民主主義に影響を与えているのです。
――日本に目を向けると、岸田文雄首相も格差拡大を意識しているのか、「新しい資本主義」というスローガンを掲げていますね。
岩本 岸田首相の掲げる「新しい資本主義」は、競争や成長よりも、分配や格差の是正を強く意識しているように感じます。つまり、日本の政府も現状の資本主義のあり方に対しては課題意識を抱いているのだと思います。日本らしい資本主義を作り上げていってほしいですね。
――「【ウクライナ、台湾、アメリカの分断…】世界同時的に民主主義が危機に陥っている理由」 では、多様な民主主義の形態があることを伺いました。例えばアメリカなどの民主主義を正解として追うのではなく、日本ならではの民主主義を作り上げていくことが重要なのでしょうか。
岩本 そうです。いわゆる、イギリスやアメリカが標榜するような「デモクラシー」が正解だというわけではありません。
比喩として正しいかわかりませんが、日本の「柔道」は世界中に「JUDO」として広がっていますよね。フランスでは、日本よりも柔道人口が多いと聞きます。日本人が目指す武道としての「柔道」と、世界に広がるスポーツとしての「JUDO」ではやはり目指すところが違うように思うんです。しかし、そのどちらが正解でどちらが間違っているということはありませんよね。ある種、文化の違いといえると思います。こうした差異が民主主義の理解にもあるように思うんです。