多様な価値観をもった人財を増やしていくために
永田 新入社員には、入社1年後にどのような姿になってほしいと思っていますか?
丸紀 まずは、何事も“自分事”として捉えるようになってほしいと思っています。そして、周りに育ててもらったという感謝の気持ちを忘れないでほしいですね。最後の研修のときには、いつも「まだまだ皆さんはたくさんの人に迷惑をかけることがありますが、いつか必ず迷惑をかけてもらえる人になってください」というメッセージを伝えています。
永田 中途入社や人事異動によって新たに部署に参加する方については、どのようにフォローしているのですか?
丸剛 新しい職場に一日でも早く溶け込めるように、「オンボーディング」という取り組みを今春から始めました。中途入社や人事異動した社員は、“何でもできて当たり前”と新しい職場の皆さんに思われたりして、周囲に頼れずにストレスを感じてしまうことが多々あります。そうしたストレスを取り除き、本来の力を発揮していただけるように、「オンボーディングリーダー」が育成計画を策定したり、業務に関する相談に乗ったりして活躍を後押しします。「分からないことは何でもこの人に聞けばいい」とはっきり決まっていると、安心して仕事に打ち込めるものですよね。
永田 ところで、「昇進の際には社外での経験も重視される」という報道を見かけましたが……。
丸剛 もともと、「中核人財のなかに、女性や外国人や中途採用者の比率を高めていきましょう」というコーポレートガバナンスコードがあり、その流れのなかで、意思決定層も多様化していくべきだという考え方に至ったという次第です。もちろん、管理職に占める中途採用者の比率を上げることも大切なのですが、「異業種交流セルフチェンジプログラム」や「越境チャレンジプログラム」などによって、社外カルチャーを体験して戻ってくる社員を増やすこと、そして、起業も含め、副業経験を経て、さまざまな経験を積んだ社員を増やすことを目指しています。たとえば、自動車メーカーに出向して自動運転の知見を高めれば、自動車保険のサービスに生かしていくことができるかもしれません。ベンチャー企業での勤務を経験すると、当社とは違うスピード感を体得できるでしょう。こうしたことを期待して、管理職になる前に、“当社の価値観だけで育っては得られないもの”を得てほしい、と考えているのです。
丸紀 「当社としての考え方しか知らない人にはならないようにしよう。逆に言えば、いろいろな文化や考え方にどんどん触れよう」ということですね。金太郎飴的な人財ではなく、多様な価値観をもった人財を増やしていくことが、イノベーションを生む企業として成長するうえで重要だと思っています。
永田 なるほど、よく分かりました。本日はさまざまなお話をありがとうございました。御社がイノベーションを生む企業として成長することを目指されるなかで、人事の方々自身が失敗を恐れずにチャレンジし、ワクワクした気持ちを持ちながら「学人サークル」「本社ジョブフォーラム」「ファミリー制度」などの魅力的な施策を打ち出されていることがとても印象的でした。
聞き手●永田正樹 Masaki Nagata
ダイヤモンド社HRソリューション事業室顧問・ビジネス・ブレークスルー大学大学院助教・立教大学大学院経営学研究科リーダーシップ開発コース兼任講師
博士(経営学)、中小企業診断士、ワークショップデザイナーマスタークラス。「アカデミックな知見と現場を繋ぎ、人と組織の活性化を支援する」をコンセプトとし、研究者の知見をベースに、採用・育成・定着のスパイラルをうまく機能させるためのツールやプログラムの開発に携わる。また、企業のOJTプログラムや経験学習の浸透のためのコンサルテーションも行っている。
*当インタビューは、新型コロナウィルス感染症に対する万全な予防対策のうえに行われました。被写体は、撮影時のみマスクを外しています。