JTBは、さまざまな研修を社員の“行動変容”にどうつなげているのか

オンラインでのサービスはもちろんのこと、国内で300店舗以上の窓口を持ち、さまざまな「旅行体験」をそれぞれの消費者に提供している、国内ツーリズム産業最大手の株式会社JTB。「地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する。」を経営理念とし、その数多(あまた)の事業を支えているのは、社員一人ひとりが持つ「人間の力」だという。グループ従業員約2万名にも及ぶ人材の育成はどのようになされているのか? グループ本社 人財開発チーム 人財開発担当部長 中村彰秀さんに話を聞いた。(聞き手/永田正樹、構成・文/棚澤明子、撮影/菅沢健治)

事業環境の激変に直面し、経営ビジョンを見直したJTB

永田 御社(株式会社JTB*1 )にとって、今年2022年は創立110周年という節目の年ですね。昨今は、消費者のライフスタイルや価値観の多様化、少子高齢化や生産年齢人口の減少、環境配慮への必要性の高まりなど、御社の事業を取り巻く環境が大きく変化しています。なかでも、新型コロナウイルス感染症(以下、新型コロナ)の拡大は、大きな影響があったのではないでしょうか?

*1 株式会社JTB 本社:東京都品川区、設立:1963年11月12日(創立年月日 1912年3月12日)、従業員数:1万9510名(グループ全体 2022年3月31日現在)。

中村 新型コロナの流行を経験して、人々にとって、旅行や人との交流がいかに不可欠なものであるのかを痛感しました。私たちの経営理念は「地球を舞台に、人々の交流を創造し、平和で心豊かな社会の実現に貢献する。」というもの。事業環境の大きな変化に直面したこともあって、改めて、この理念は、これまでもこれからも変わらない私たちのミッションだと再認識しました。

永田 新型コロナの流行が拡大し始めた2020年6月に御社の代表取締役社長が山北栄二郎さんに替わり、2020年7月にはコロナ禍を踏まえた中期経営計画が発表されました。その内容から、時代の変化に対応していく御社の強い意気込みを感じました。

中村 そもそも、旅行業とは“形のないモノ”を人の力で販売する仕事ですから、私たちJTBには、「会社は人で成り立っている」という意識が強くあります。時代が大きく変化しているのであれば、社員一人ひとりがその動きに対応していかなければなりません。「いったいどのように対応すべきか?」については、コロナ禍以前から議論しており、新型コロナの感染拡大はそのさなかでした。そうして、新型コロナによって、ビジネスそのもののあり方が制限されたり、ツーリズム産業界から人材が流出するといったさまざまな影響を受けたことから、時代の変化への対応だけではなく、事業の立て直しも迫られるかたちになりました。

永田 中期経営計画のなかでは「交流創造事業*2 」のさらなる推進を宣言されています。

中村 これまでは、お客様からのご相談やお申し込みを受けて旅行やイベントなどを中心に提供してきましたが、デジタル化の加速やコロナ禍後の旅行スタイルの変化を考慮すると、これからは、リアルとオンラインを組み合わせたハイブリッドなサービスや新たなソリューション開発など、人と人が交流することで新たな価値を生み出す領域にチャレンジしていく必要があります。それぞれの事業領域の中で、お客様に寄り添い、ソリューションを通して交流を創造していく人材の育成が求められます。

*2 JTBは、中期経営計画「『新』交流創造ビジョン」において、交流創造事業として、(1)ツーリズム、(2)エリアソリューション、(3)ビジネスソリューションの3つの事業戦略を明示している。

永田 2022年4月には、JTBグループのあり方や行動を規定した“The JTB Way”も改訂されましたね。

中村 はい。まずは会社としてのあり方から見直すことになり、2020年から“The JTB Way”の改訂に向けての取り組みを始めました。新たな“The JTB Way”では、経営理念の下に「地球を舞台に“新”交流時代を切り拓く」という新たな経営ビジョンを置きました。ここには、「人々の世界観、価値観の変化を敏感に感じ取りながら、デジタルという基盤の上で人の力を生かし、笑顔と夢をつなぐ新しい交流時代を切り拓こう」という思いを込めています。この経営ビジョンの下には、これまでと変わらないブランド・プロミス、さらにその下にはすべての社員にとっての判断・行動基準であり、共通の価値観となる “ONE JTB Values*3 ”として「信頼を創る、挑戦し続ける、笑顔をつなぐ」を提示しました。これまでは、“The JTB Way”を朝礼で唱和する慣例もあったのですが、今年2022年の4月からは毎朝30秒ほどの時間をとって、自分の内面に問いかけるようにしています。いわゆる“ビジョナリー・リフレクション”です。

*3 JONE JTB Valuesとは、グループ経営ビジョンの実現、経営方針の具現化、お客様に約束すること(ブランド・プロミス)の体現に向けて、グループの全ての社員が大切にし、日々の判断・行動の基準となる「共通の価値観」のこと。(JTB「The JTB Wayページ」より)

永田 “ONE JTB Values”については、御社の上層部の方々が一方的に決めるのではなく、全社員を対象に、「JTBとして、いちばん大事にしていることは何ですか?」というアンケートをとって決めたそうですね。

中村 そうです。そのときに意識したのは、“ONE JTB Values”を実際の行動につなげていくために、単語だけを並べるのではなく、フレーズにしたことです。たとえば、「信頼」という言葉も、単語だけでは行動になかなかつながりませんが、「信頼を創る」というフレーズにすることで、「信頼を創るために、自分には何ができるのだろう?」という問いかけが生まれ、行動につながっていくのです。

JTBは、さまざまな研修を社員の“行動変容”にどうつなげているのか

中村彰秀 Akihide NAKAMURA

株式会社JTB グループ本社 人財開発チーム 人財開発担当部長

1986年に株式会社日本交通公社(現JTB)入社。法人営業、営業本部、海外企画旅行部門での販売促進課長、営業チームマネージャー、オセアニア部長、CSR担当部長等を経験し、2017年より株式会社JTB グループ本社の人財開発担当部長となり現職に至る。持続的な価値創出の源泉は「人財」であり、社員の成長・活力がグループ及び各事業の成長・飛躍・変革を支えるという基本理念に基づき、JTBグループ社員の能力開発・キャリア開発・組織風土改革を担当する。2020年、国家資格キャリアコンサルタント取得。