三井住友海上インタビュー(1)一歩踏み出してチャレンジできる“人財”こそが、競争力の源泉

学生の就職希望先としても人気の高い三井住友海上火災保険株式会社(MS&ADインシュアランス グループ)。本年度(2022年度)からスタートした中期経営計画では、「人財」を、会社の基本方針・重点施策を支えるための「経営基盤」と位置づけ、その採用と育成によりいっそう注力している。自己啓発支援としての「エンパワーメントセミナー」「学人(まなびと)サークル」、職場での人財育成支援としての「ファミリー制度」など、同社ならではの試みからは他社が学ぶことも多いだろう。人事部の丸山剛弘さんと丸山紀子さんに話を聞いた。(聞き手/永田正樹、構成・文/棚澤明子、撮影/菅沢健治)

新たな経営計画を実現させるための “人財”とは?

永田 今年4月、御社は2025年に向けての新たな中期経営計画を策定されました。気候変動や新型コロナウイルスの流行、国家間紛争などによって、経済や環境の将来が世界的に不透明さを増しているなか、経営計画にはどのような思いが盛り込まれたのでしょうか?

丸山剛弘(以下、丸剛) 従来の価値観やビジネスモデルが通用しないVUCAの時代が到来したといわれるなかで、リスクを扱う損害保険会社の存在意義が今後ますます高まることは間違いありません。けれども、私たちが築いてきた伝統的な事業モデルが、5年後10年後もそのままで通用しているかと問われれば、そのようなことはないと思います。このような状況を背景に、今年度からスタートした新たな中期経営計画では、「未来にわたって、世界のリスク・課題の解決でリーダーシップを発揮するイノベーション企業」を“目指す姿”として掲げ、当社と社会のサステナビリティを両立させる「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」を推進していくことを宣言しました。

丸山紀子(以下、丸紀) そのサステナビリティ・トランスフォーメーションを実現するために、「国内損保事業の収益構造改革」「海外事業の収益拡大」「資産運用利益の拡大」「新たなビジネスの創造」「グループシナジーの発揮」という5つの基本方針を掲げ、それぞれについて、複数の重点施策と、2025年までに目指すKPIを設定しています。

永田 そうした経営計画を実現するために、“人財戦略”についてはどのように考えていらっしゃいますか?

丸紀 「人財戦略は、経営戦略と連動させるもの」と考えています。具体的には、先ほどお伝えした5つの基本方針と重点施策を支えるものとして、「品質」「ガバナンス」「ERM」と合わせて、「人財」を経営基盤のひとつとして位置づけました。「未来にわたって、世界のリスク・課題の解決でリーダーシップを発揮するイノベーション企業」となるためには、性別、年齢、国籍、役職、新卒・中途入社などの違いにかかわらず、あらゆる社員が知恵を出し合ってイノベーションを生み出していくことが重要です。

丸剛 人財は、どのようなときも競争力の源泉ですので、これまでも強化には力を入れてきました。ただ、これまでの中期経営計画では「全社員で一段上のレベルアップを目指そう、全社員で一歩を踏み出そう」という方向性での取り組みが主でした。もちろん、そうした方向性も大切ですが、今回は、それに加えて、「イノベーションを支える人財の確保・育成と最適な要員配置」に焦点をあてています。5つの基本方針のひとつひとつに対してきめ細かな重点施策を推進していくために、必要なスキルや人数を具体的に想定しています。社内に必要な人財がいなければ、人財が育つまでに2年、3年と待つわけにはいきませんから、中途採用も積極的に行っていくことになります。それぞれの領域を所管する部署と人事部が協力しながら、採用人数の調整や教育プログラムの展開なども含め、すべてにおいて、これまでよりも一歩踏み込んだ取り組みを行っていきます。同時に「社員の能力・スキル・意欲が最大限に発揮される人事運営や環境の構築」も進めていく必要がありますね。

永田 領域によって、必要となる人財の質や人数と現状には、かなりの違いがあるのではないでしょうか?

丸紀 そのとおりです。たとえば、デジタル領域やリスク管理領域などでは、今後、さらに重要性が高まるので、中途採用に力を入れたり、中途採用した方のノウハウを社内に伝播してもらったりするなど、さらなる専門性の向上が必要になります。海外人財、デジタル人財についてもさらに高度な専門性が必要になるので、育成、拡充のKPIをしっかりと達成できるように取り組まなければなりません。一方で、営業部門や損害サポート部門などの一般的なお客さまと接する部門については、お客さまのデジタル化の進捗を踏まえ、その一歩先をいけるように、実践的な研修や社外での経験を重ねる必要があります。

永田 中期経営計画を実現するためには、社員の皆さんに求めるメンタリティもこれまでとは変わってきますか?

丸剛 まさにそうです。特に求められるのは、イノベーションに不可欠な「自ら学び、考え、主体的に行動すること」「過去の経験・知識に安住せず、自己成長を続けること」「失敗を恐れずチャレンジすること」です。保険業界というのは、商品やサービスが進化しても基本的な構造はそこまでドラスティックに変わらないので、安住しようと思えばしやすい面もあります。大切なのは、あえて安住せず、過去の成功体験や学びを意識的に捨てる“アンラーニング”の姿勢ですね。

丸紀 社内には、「常識からあまりかけ離れたことはしない」というカルチャーも一部にはありますからね。もちろん、常識的な行動も大切ですが、それだけでは画期的な商品やサービスは生まれませんので、一人ひとりが失敗を恐れずに一歩踏み出してチャレンジできる仕組みを構築していきたいと考えています。

丸山剛弘

三井住友海上火災保険株式会社

人事部 部長 丸山剛弘

1993年に住友海上火災保険株式会社入社。大阪本社総合営業第一部、本店営業推進部を経て、通産省に3年間出向し通商白書執筆、大学等技術移転促進法制定に従事。商品・事務部門で主に火災新種保険の開発等に13年携わった後、2012年より人事部。人事部では主に人事制度改定を担当。東京都社会保険労務士会会員。

 

丸山紀子

三井住友海上火災保険株式会社

人事部 部長(能力開発担当) 丸山紀子

結婚を機に前職を退職。出産・育児を経て、2004年に三井住友海上岐阜支店に派遣社員として勤務。2006年に社員転換。2016年にポストチャレンジ制度(社内公募制度)を利用して、本社営業推進部に異動。2017年に営業企画部に異動し、主に営業部門の女性活躍を支援。2020年に社員区分をワイドエリアに転換し、人事部能力開発チーム長として異動。2022年より現職。国家資格キャリアコンサルタント。