三井住友海上インタビュー(2)人事部の私たちも、失敗を恐れずにチャレンジすることが大切

学生の就職希望先としても人気の高い三井住友海上火災保険株式会社(MS&ADインシュアランス グループ)。本年度(2022年度)からスタートした中期経営計画では、「人財」を、会社の基本方針・重点施策を支えるための「経営基盤」と位置づけ、その採用と育成によりいっそう注力している。自己啓発支援としての「エンパワーメントセミナー」「学人(まなびと)サークル」、職場での人財育成支援としての「ファミリー制度」など、同社ならではの試みからは他社が学べることも多いだろう。人事部の丸山剛弘さんと丸山紀子さんに話を聞いた。(聞き手/永田正樹、構成・文/棚澤明子、撮影/菅沢健治)

*本稿は「三井住友海上インタビュー(1)一歩踏み出してチャレンジできる“人財”こそが、競争力の源泉」の続きです。

活躍するステージを広げ、理想の自分を実現する

永田 コロナ禍以前は、自分の職場とは異なる本社の部署やグループ会社で数日間の仕事を体験する「社内トレーニー制度」がありましたね。年間400名ほどが参加されていたそうですが、コロナ禍以降はどのような形で継続されているのでしょうか?

丸山剛弘(以下、丸剛)「社内トレーニー制度」はコロナ禍によって2020年と2021年は実施できませんでした。そのかわり、自分が関心を持っている部署がどんな仕事をしているのかを聞くことができる「WEB交流会」を始めました。2020年は約400名、翌年は約800名が集まり、関心の高さを感じました。「社内トレーニー制度」だと、実際に現場に足を運ぶ必要があったので、むしろ、オンラインになったことで参加しやすくなったのでしょう。

永田 オンラインに移行して3年目となった今年(2022年)は、「WEB交流会」を「本社ジョブフォーラム」として刷新されたとのことですが、これまでとはどのような点が違うのでしょうか?

丸剛「WEB交流会」は、事前に申し込みをした日に該当する部署の話を聞くことしかできませんでしたが、それだと限定的ですよね。そこで、音楽フェスのように複数の部署の話を一度にたくさん聞ける日として「本社ジョブフォーラム」をつくったのです。たとえば、「営業企画部と営業推進部は何が違うのだろう?」といったように、名前は知っていても業務内容がよく分からないことが誰にでもあります。 そうした疑問を一日でざっと解決し、キャリアビジョンについて考える際の参考にしよう、ということが狙いです。

丸山紀子(以下、丸紀) 実際に、「各部署の業務が自分のイメージと違っていたことが印象的だった」「初めて知る業務が多くあり、気づきがあった」などという声が上がっています。誰もが気軽に参加でき、出入りも自由なので、仕事の空き時間を利用し、参加することもできます。

永田 その「本社ジョブフォーラム」は、Zoomではなくメタバースの空間で開催されたのですね。先進的な取り組みですが、参加された皆さんの様子はいかがでしたか?

丸剛 同じ空間に皆さんのアバター(自分の分身である似顔絵キャラクター)がいて、アバター同士で会話もできます。そんなメタバース特有の“対面に近い距離感”をみんなで体感できてよかったと思っています。年配の方もデジタルが苦手な方も、積極的に“拍手する”といったリアクションを楽しんでいました。若い方よりも、部長クラスの方などから好評だったように感じています。もしかしたら、こういうところから会社のカルチャーが変わっていくのかもしれませんね。

丸紀  育成や研修には堅苦しいイメージがつきまといがちですが、まずは、創っている私たちがワクワクすることが大切だと思っています。私たちがイマイチだと思うのであれば、社員はもっとイマイチだと思うのではないでしょうか。やってみて、不評だったら、見直したり、引いたりすればいい。「失敗を恐れない人財を」と言うのであれば、人事にいる私たちが失敗を恐れず、どんどんチャレンジしていかなければ、と思っています。

三井住友海上インタビュー(2)人事部の私たちも、失敗を恐れずにチャレンジすることが大切

永田 御社では、“活躍するステージを広げて理想の自分を実現すること”をゴールとした「自律的キャリアビジョンの実現」というロードマップを提示されていらっしゃいますね。いまお話しされた「本社ジョブフォーラム」は、自律的キャリアビジョン実現の土台に位置する、ということでしょうか?

丸剛 そうですね。「本社ジョブフォーラム」は、さまざまな業務を理解することで自分が目指す姿を思い描いたり、目標を設定したりするという意味で、ロードマップのベースに位置づけています。そして、「本社ジョブフォーラム」を聞いて、体験してみたいと思う業務があれば「プロジェクトチャレンジ」や「ミートアップ」という、期間限定のオンライン職業体験に手を挙げることができます。体験してみれば、自分の力が足りないのだと気づくこともありますよね。業務ごとに、必要となる知識やスキルを端的に明示している「キャリペディア」という仕組みもありますので、そこを見て、自分に足りない力や学びの方向性を考えることもできます。「こんな力がもっとあったら、憧れのあの部署で役に立てるのではないか?」と思うと、人は学びたくなるものだと思います。そこで具体的な研修メニューを選んでいただくのですが、当社にないプログラムをご自身で探してきた場合には、費用の補助も行っています。体験してみて、また力が足りないと感じたらまた学んで……と、体験と学びを繰り返すことが理想的ですね。この繰り返しを経て自信がついたら、社内フリーエージェントやポストチャレンジ制度(社内公募制度)に手を挙げて、さらなるステップアップにつなげてほしいです。

丸山剛弘

三井住友海上火災保険株式会社

人事部 部長 丸山剛弘

1993年に住友海上火災保険株式会社入社。大阪本社総合営業第一部、本店営業推進部を経て、通産省に3年間出向し通商白書執筆、大学等技術移転促進法制定に従事。商品・事務部門で主に火災新種保険の開発等に13年携わった後、2012年より人事部。人事部では主に人事制度改定を担当。東京都社会保険労務士会会員。

 

丸山紀子

三井住友海上火災保険株式会社

人事部 部長(能力開発担当) 丸山紀子

結婚を機に前職を退職。出産・育児を経て、2004年に三井住友海上岐阜支店に派遣社員として勤務。2006年に社員転換。2016年にポストチャレンジ制度(社内公募制度)を利用して、本社営業推進部に異動。2017年に営業企画部に異動し、主に営業部門の女性活躍を支援。2020年に社員区分をワイドエリアに転換し、人事部能力開発チーム長として異動。2022年より現職。国家資格キャリアコンサルタント。