文化が異なれば、社会的課題にも違いが生まれる

 韓国での10日間の研修プログラムは、私がお世話になっている2つの機関を頼って、前・後半2部制で構成した。前半は韓国ナザレ大学の学生たちと韓国語研修を交えた交流を行い、後半はその学生たちと一緒に、劇団ラハプという障がい者文化芸術団体の実践現場に入ってフィールドワークを行う。

 韓国ナザレ大学は、障がい学生支援の領域で韓国の大学をリードしてきた大学であり、全学生の7~8%が支援を受けながら学ぶ障がい学生である。中でも、知的障がい学生と発達障がい学生のための学部がある点で、世界的にユニークな構成と理念をもつ大学だといえる。

 韓国ナザレ大学にいる間は、この大学の学生たちが韓国語を一生懸命教えてくれたり、近隣の博物館などに連れて行ってくれたりする。また、街の有名な食事処を案内してくれたり、仲よくなった神戸大学の学生を自宅に招いてくれたりもする。日本の学生も韓国の学生も、それぞれが相手の国の学生と友だちになりたいという思いをもって参加しているので、急速に仲よくなっていく。

 後半は、知的障がい者のミュージカル劇団でのフィールドワークである。この劇団は「ラハプ」といい、元々は韓国ナザレ大学で学ぶ知的障がい・発達障がい学生の課外活動のサークルだった。自由時間を自律的に充実させることが苦手な学生たちが多いため、学生の保護者が専門家たちを招いて創立したサークルである。このサークルが社会から評価を受けることで、学外に社団法人を設立して、障がい者の文化芸術活動振興のための活動を展開している。

 学生たちは劇団ラハプを訪問し、ミュージカルの練習体験をはじめとするさまざまな活動に参加した。劇団員たちと仲よくなり、一緒に食事をしたり、旅行をしたりすることで、学生たちは、彼らの実践の意義を深く理解していく。

 私が、このようなプログラムを企画運営するのは、学生たちに、比較的気軽に訪問できる隣国で文化の違いを肯定的に体感してほしいという気持ちが強くあるからだ。また、文化が異なると社会的課題の現れ方にも違いが生まれることに気づき、学生たちが馴染んでいる社会の見え方が変わってくることも期待している。

 1人でも新型コロナに感染したら、プログラムの中断を余儀なくされたり、韓国内に足止めされたりするというリスクに怯えながらも、学生たちはたくさんの人たちと深く触れ合った。長く行動を制限されてきた学生たちにとって、満足度の高いプログラムとなったようだ。