コロナ禍での韓国スタディツアーで、学生と教員の私が気づいたこと

学生をはじめとした若者たち(Z世代)はダイバーシティ&インクルージョンの意識が強くなっていると言われている。一方、先行き不透明な社会への不安感を持つ学生も多い。企業・団体はダイバーシティ&インクルージョンを理解したうえで、そうした若年層をどのように受け入れていくべきなのだろう。神戸大学で教鞭を執る津田英二教授が、学生たちのリアルな声を拾い上げ、社会の在り方を考える“キャンパス・インクルージョン”――その連載第6回をお届けする。(ダイヤモンド社 人材開発編集部)

* 連載第1回 「生きづらさを抱える“やさしい若者”に、企業はどう向き合えばよいか」
* 連載第2回 ある社会人学生の“自由な学び”から、私が気づいたいくつかのこと
* 連載第3回 アントレプレナーの誇りと不安――なぜ、彼女はフリーランスになったのか
* 連載第4回 学校や企業内の「橋渡し」役が、これからのダイバーシティ社会を推進する
* 連載第5回 いまとこれから、大学と企業ができる“インクルージョン”は何か?

学生たちを海外に連れ出すプログラムが再開された

 一昔前に比べて、海外で学ぶハードルは、ずいぶん低くなった。政府は国境をまたいで活躍する「グローバル人材」の育成を進めている。それに応じて、大学でも、学生たちに留学を促し、海外での学びをサポートするしくみが充実した。

 私が教壇に立つ神戸大学国際人間科学部は、卒業までに少なくとも1回は海外で学ぶことを、すべての学生に課している。GSP(Global Studies Program)といって、世界中で起こっている課題をさまざまな人と協働して解決をめざす「グローバル人材」の育成をねらいとする。学生たちは、グローバルな課題の解決に取り組んでいる現場を体験することで、自分が追究しようとする専門性の幅を深めたり、広げたり、学びへのモチベーションを高めたりする。

 海外で学ぶことを卒業要件にしている大学はいくつか現れているが、神戸大学国際人間科学部の場合は、海外留学以外にも、学生が選択できるオプションを準備している。教員が研究活動で往来している海外のフィールドに学生たちを連れて行き、2週間以上の現場体験をする「研修プログラム」も、そのオプションのひとつである。

 教員の努力によっていくつもの魅力的なプログラムが開発されたが、2020年度と2021年度は、新型コロナ感染拡大のために学生を海外に送り出すことがほとんどできなかった。そこで、代替プログラムとして、オンラインで海外の機関とつながる学修機会を設けた。学生たちは、オンラインプログラムによって留学したことにする以外に方法がなく、実際に海外の空気を吸い、文化の異なる人たちと交流する機会を失った。海外渡航制限が緩和された2022年度は、オンラインプログラムに物足りなさを感じる学生も増えてきたこともあって、少しずつだが、学生たちを海外に連れ出すプログラムが再開された。現在もまだ、一学年280名の学生たちすべてに海外で学ぶプログラムを準備できる状況ではないが、それでも学生たちの学びも正常に戻り始めた。

 私も「研修プログラム」を担当しており、8月に韓国のスタディツアーを敢行した。12名の学生たちと1名の車いすユーザーの青年が参加したこのプログラムの様子を伝えることで、ダイバーシティに対する学生たちのリアルな感覚に迫ってみたい。