課題の共通性を肌身で感じた日韓の学生たち

 学生たちは、食事をしている間も、あるいは電車やバスで移動している中でも、新鮮な発見をたくさんしていた。そして何より、若者どうしの深い関わりあいから多くを学んでいた。セウォル号事件が学校生活に及ぼしていた影響、徴兵の経験など、韓国の学生の現実を身近に知ることは、自分の置かれている状況をふりかえる手がかりになったようだ。

 日韓の学生ともに、スマホ片手にあれこれの方法を使ってコミュニケーションをとりあっていた。ふたつの国の学生たちがアプリを駆使して談笑している様子を見て、コミュニケーションのハードルを下げてくれるテクノロジーの進歩に驚かされた。アプリによる同時通訳はかなり精度が高い。文字情報も即座に翻訳してくれる。コロナ禍の2年余りのうちにも、アプリの利便性は驚くほど大きく改善されたように感じる。

 テクノロジーの発展も、“人との出会いから学ぶことに比重を置く”海外の学びを、より身近にしてくれているのだ。スマホ片手に人との関係を深め、対話をし、行動を共にすることで、自然と気づきが導かれていく。ものの見え方の多様性、国や文化が異なっても直面している課題の共通性を肌身で感じ、連帯意識が芽生える。

 韓国の学生との関係であれば、歴史認識に関わる日韓の隔たりも大きなテーマになる。今回のスタディツアーでは、韓国を深く知ることのできる大規模な歴史博物館である独立記念館の見学を組み込んだ。見学後に歴史認識の違いをひとしきり語り合っていたことも、日韓の学生たちにとって大きな経験だっただろう。

 後半の劇団ラハプのメンバーたちとは、一緒にタップダンスの練習に取り組んだり、ゴスペルソングを歌ったりした。また、バスに乗って釜山や大邱にまで旅行して、最後には一緒に「障がい者の文化芸術活動」をテーマとする日韓交流セミナーに参加した。生き生きと活動を繰り広げる障がい者たちと行動を共にすることで、学生たちの心はずいぶん揺り動かされたのではないかと思う。

 10日間のスタディツアーの終わりには、日韓の学生たちや、劇団ラハプのメンバーたちは、「またLINEするね」と約束したり、日本での再会を約束したりして、別れを惜しんだ。LINEなどのツールは、自動的に翻訳する設定もあるので、ほぼ何のストレスもなく交流を継続できるのだ。

 こうした経験を経た学生たちの深い学びを感じとることができる場面はいくつかあった。その中でも、特に印象に残っているエピソードを紹介しよう。