「静かで控えめ」は賢者の戦略──。そう説くのは、台湾出身、超内向型でありながら超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンだ。同氏による世界的ベストセラー『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かしている。騒がしい世の中で静かな人がその潜在能力を最大限に発揮する方法とは? 本稿では、本書より日本版に向けて書き下ろされたメッセージを特別に公開する。
ひとり反省会ばかりしている
子どものころから、あっという間に友だちをつくれる外向型の人を、うらやましいと思っていた。
外向型はたやすく信頼を勝ち取り、頭の回転も速く、行動も迅速だ。性格もほがらかで、魅力にあふれている。そして職場でも、ごく自然にリーダーシップを発揮する。
それにひきかえ、私はかなりの内向型で、小さいころからおとなしかった。
新しい環境では、緊張で身体が硬くなってしまう。何をするにも優柔不断で、起こるはずもないことを、いつもくよくよ心配している。
「もしこんなことが起こったらどうしよう」「あんなふうに言ってしまったけど、誤解を招かないだろうか」など、私のひとり反省会は止まらない。
大人になるにつれて、「外向型の人のほうが強い」という価値観が、私のなかで少しずつ育まれていった。子どものころから身近な存在だった『ドラゴンボール』の孫悟空や『ONE PIECE』のルフィなど、漫画の主人公たちも、みんな外向型だった。
外向型人間が世界を救うと決まっているなら、私はいったいここで何をしているんだろう? そんなモヤモヤを抱えながら、私は社会に足を踏み入れた。
知ってほしいこと
──「ネガティブな面」も「長所」にできる
だが年齢を重ね、職場経験も豊富になるにつれ、私は少しずつ自分の強みを見つけていった。そして、その強みを生かすために、自分に合った戦略を練り、うまく操れるようになっていった。
「優柔不断」は裏を返せば「思慮深い」ということだし、「心配性」は「リスクマネジメント」においては、効果的な特徴だ。
それに私は、パーティーで必死に名刺を配らなくてもすむ方法や、友だちをつくる方法も見つけた。おとなしくてもリーダーになれる手段も探り出した。
いまでは、声を荒らげなくても、自分にとって重要なことを効果的に主張する方法も心得ており、なかなかうまくいっている。
内向型の人は、アイデアや野心をもっていないわけではなく、夢を追うのにいちいち騒がないだけだ。
とにかく一歩踏み出す
本書は、私が十数年来、さまざまな職場で培ってきた知恵と経験をまとめたものだ。「口数は少なくても、誰もが耳を傾ける」ような、自分の意見をきちんと主張するための実践的な方法をお伝えしたいと思っている。
私は内向型の人に関する各国の優れた本をたくさん読み、深く影響を受けてきたが、その著者の多くは企業家や、心理学者や、企業アドバイザーなどだった。
そうした本と本書との大きなちがいは、インターンから始めた私の経験が詰まっていることだ。
会議のときマネージャーに意見を求められるのを恐れたり、電話をかける前には深呼吸をし、あらかじめ話す内容をメモしておかねば、と思ったりする気持ちが、私にはよくわかる。
内向型であっても、外向型であっても、自分の個性を大切にして、安全地帯(コンフォート・ゾーン)から一歩踏み出すこと。他人に貼られたレッテルのせいで、自分の可能性を狭めてはいけないこと。この本でいちばん伝えたいのは、そういうことだ。
本書が世界をほぼ一周し、ついに日本に到達する機会に恵まれたことに感激で胸がいっぱいだ。なんといっても日本は、私や多くの台湾人にとって、とても大切な国だから。
みなさんはおそらくご存じないと思うが、台湾発のビジネス書が日本で刊行されることは本当に少ない。こうして本書を日本に届けるまでには、台湾で多くの関係者が動いてくれた。
その背景には、日本の友人たちへの感謝の気持ちがいちばんにあるように思う。
この2年間、世界各国はコロナ禍において苦しんできた。台湾も以前、ワクチンを購入できず、窮地に陥ったことがある。
そんなとき、温かい手を差し伸べてくれ、貴重な支援をしてくれた日本に感謝したい。
この本はささやかながら心からの感謝のしるしであり、私たちの思いがみなさんに伝わるよう願ってやまない。
そしていつか、みなさんに直接お会いできるようになったら、気持ちよく晴れた午後にお茶でも飲みながら、ご一緒にゆっくりと語り合えますように。
(本原稿は、ジル・チャン著『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』からの抜粋です)