知る人ぞ知る問題解決メソッド、「問題解決の7ステップ」がついに書籍化する――。マッキンゼーで最も読まれた伝説の社内文書「完全無欠の問題解決への7つの簡単なステップ」の考案者であるチャールズ・コン氏みずから解説する話題書『完全無欠の問題解決』(チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著、吉良直人訳)が注目を集めている。マッキンゼー名誉会長のドミニク・バートンは「誰もが知るべき、誰でも実践できる正しい問題解決ガイドがようやく完成した」と絶賛、グーグル元CEOのエリック・シュミットも「大小さまざまな問題を解決するための再現可能なアプローチ」と激賞している。本書では、「自宅の屋根にソーラーパネルを設置すべきか」「老後のためにどれだけ貯金すればいいか」といった個人の問題や「販売価格を上げるべきか」「ITの巨人に訴訟を挑んでいいか」といったビジネス上の問題から、「HIV感染者を減らすには」「肥満の流行をどう解決するか」といった極めて複雑なものまで、あらゆる問題に応用可能なアプローチを紹介している。本稿では、本書より内容の一部を特別に公開する。
将来のキャリアをどのように選ぶべきか
オートメーションと人工知能が果たす役割がますます拡大するにつれて、労働市場の予測は、25年、50年前と比較して、多くの面で不確実性を帯びている[*1]。10年前には存在しなかったような、非ルーティーンで認知的な仕事の周りに追い風が吹いている。
世界経済フォーラムの新しい仕事のリストをご覧になったことがあるかもしれない。新しい仕事とはつまり、アプリ開発者、ソーシャルメディア・マネジャー、自動運転車エンジニア、クラウドコンピューティングの専門家、ビッグデータ・アナリスト、サステナビリティー・マネジャー、ユーチューブ・コンテンツ・クリエーター、ドローン操縦者、ミレニアル世代エキスパートなどだ。しかし、10年後には、このリストはまた異なる顔ぶれの職業が入っていることだろう。
それでは、キャリアを選ぶ若者として、あなたはこの変化する労働環境の中で自分をどのように位置付けるのが最良なのだろうか。まず、経済的な労働環境を把握するためのツリーを作成する(図表1)。これを見ると、非ルーティーンの認知的な仕事の雇用シェアが非ルーティーンのマニュアル的な仕事と同様に拡大している一方で、ルーティンの認知的とルーティーンのマニュアル的な仕事の雇用シェアが縮小していることがよくわかる。
あなたは、個人の能力レベル、興味、リスク許容度などの内部知識を、教育やキャリア選択の判断材料にすることができる。ワークマーケット社の共同創業者兼社長であるジェフ・ウォルドは、「あなたは何に情熱を持っていますか? そのためにはどのようなスキルセットが必要ですか?」と問いかける[*2]。
このために、まずは簡単なチャートに記入する。チャートの横の行は、あなたが最終的に働く可能性のある幅広い潜在的な分野やセクターを表す。縦の列は4つあり、1列目はその分野の経済予測、次の列は自分の能力レベル、興味、リスク許容度に関する個人的な評価を表す。最初の列は、経済予測を使って記入し、更新することができる。
候補となる分野、科目、雇用セクターごとに、2列目、3列目、4列目に、自己評価した強み、興味、リスク許容度を記入する。図表2は、ある研究チームメンバーの記入したマトリックスを示している。
では、この情報は、どのようにあなたを決断に導くのだろうか。まず、自分の能力や興味が低い分野を排除することから始める。そして、最も有望な分野、つまり最も高い関心と能力を持つ分野から始めて、このツリーを次のステップやアクションの指針として利用することができる。私たちは、3つの戦略やアクションの可能性を定義している。
キャリアの3つの戦略
戦略1 大きな賭けをして、かなりのリスクを伴う道に踏み出す
戦略2 悔いのない手段をとり、安全な分野で基本的な教育や訓練を受け、リスクから身を守る
戦略3 2つ以上の分野や職種の教育や訓練に時間とエネルギーを投資することで、賭けをヘッジする
こうした戦略の中には、起業家としての道と教育者としての道という2つの大きな道がある。高い能力、高い興味、高いリスク許容度、そして高い経済的機会に直面したときに、起業家精神があなたの名前を呼ぶかもしれない。
しかし、すべての星が完全に一列に並んでいない可能性のほうが高い。その場合、悔いのない手段をとって学問の基礎を身につけるか、2つの分野にまたがって賭けをヘッジすることを選び、2分野専攻や、生涯教育などの戦略を立てる必要がある。
図表3は、こうした戦略的選択を示している。
図表3に示したツリー、表、一連のアクションツリーは、個人が教育やキャリアを選択する過程で、自分の情熱、スキル、リスク許容度に適した意思決定を行う際に、簡単に適用し、繰り返し行うことができる。
(本原稿は、チャールズ・コン、ロバート・マクリーン著『完全無欠の問題解決』を編集・抜粋したものです。この伝説の問題解決メソッドについてはこちらの記事で詳しく説明しています)
注
*1 McKinsey Executive Briefing. Technology, Jobs, and the Future of Work.
www.mckinsey.com/featured-insights/employment-and-growth/technology-jobs-and-the-future-of-work
*2 “The Digital Future of Work,” McKinsey Global Institute, July 2017
https://www.mckinsey.com/featured-insights/future-of-work/the-digital-future-of-work-what-will-automation-change
【著者プロフィール】
チャールズ・コン
ハーバード大学、ボストン大学卒業、およびローズ奨学生としてオックスフォード大学大学院修了。ボストン コンサルティング グループでキャリアを開始した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーのパートナー、ティケットマスター・シティーサーチ社の創設代表取締役、オックスフォード大学ローズ奨学金財団CEOを歴任。100年を超える歴史を持つ財団組織において、学者のための問題解決トレーニング・プログラムの開発を含む戦略と運営を刷新するための改革を成功させる。ほかにもパタゴニア、南アフリカのマンデラ・ローズ財団、アルカディア財団など、数多くの企業や財団の理事会、役員会に参加。ゴードン&ベティ・ムーア財団の上級顧問を務める。野生のサーモンの生態系イニシアティブとパルミラ環礁研究ステーションを含む環境保護プロジェクトに参加。
ロバート・マクリーン
ニューイングランド大学(オーストラリア)卒業、コロンビア大学ビジネススクール修了。マッキンゼー・アンド・カンパニーの名誉ディレクター。オーストラリアとニュージーランド共同事務所の総責任者として8年間同社を主導し、グローバル・ディレクター委員会委員を務める。オーストラリア経営大学院学部長、オーストラリア最大の慈善財団であるポール・ラムジー財団理事を歴任。オーストラリアとアジア地域の自然保護区の管財人として、湿地での水質保全、貝類の種の回復、都市の緑地からもたらされる人間の健康の改善に取り組んでいる。ビジネス、社会福祉、環境への貢献により、2010年オーストラリア勲章を受章。
吉良直人(きら・なおと、翻訳)
国際基督教大学教養学部卒業。ハーバード大学経営大学院修了(MBA)。帝人未来事業部、帝人ボルボを経て、マッキンゼー・アンド・カンパニージャパンに入社。以来、大前研一氏の同社退職まで共に働いた。『マッキンゼーが予測する未来』(ダイヤモンド社)ほか訳書多数。
マッキンゼー名誉会長 ドミニク・バートンからのメッセージ
「完全無欠(ブレットプルーフ)」。マッキンゼーでは、問題解決者としての評判にどこから攻撃を受けても守れる防弾処理を行ったという意味で「完全無欠の」という表現を超える褒め言葉はない。現代のコンサルティング会社を機能させるには、多くのスキルと多様な種類の知性が必要だが、基礎となる能力は常に創造的な問題解決力である。
近年、経済的および技術変化のペースが加速するにつれ、優れた問題解決の重要性は増大し、それに伴って対処しなければならない問題の範囲や複雑さも増している。
今日私たちは、消費者向け新製品のデジタルマーケティング戦略を開発するために雇われるのと同じように、ある国の公衆衛生システムが次のエボラ出血熱発生に備える支援のために雇われる可能性がある。より多くのデータが利用可能になるにつれて、思考の質の基準も高まっている。だからこそ、完全無欠の問題解決者が必要とされている。
産業界であれ、非営利団体であれ、政府機関であれ、新しい組織構造や運用ルールがこれからどうなるかを予測し、計画することは不可能である。また、従来のドメイン指向のトレーニングアプローチを単に推進し、適応させるだけでは十分ではない。このレベルの変化をうまく乗り越える唯一の方法は、流動的で創造的な問題解決者になることである。
世界経済フォーラムが21世紀に最も求められるスキルに「複雑な問題解決スキル」を挙げたのは、このためである。あらゆる組織が、人材採用にこの能力を何よりも求めている。
学校や大学で規律ある包括的な問題解決アプローチが教えられていないことは、驚くべきことだろう。多くのビジネススクールでさえ、ほとんどのカリキュラムに存在しない。根本原因分析や、現在流行しているアジャイルチームやデザイン思考などの要素を見ることはできるが、十分ではない。本書は、私たちがマッキンゼーで長年実践してきた実績のある方法論をアレンジし、これまでなかった問題解決の体系的なプロセスを紹介するものである。
あらゆる問題に使える完全無欠の問題解決メソッド
本書の著者であるチャールズとロブが示している7ステップの方法は、明白でわかりやすいものだ。専門的なスキルや派手な数学の才能は必要ない。本書は、この洗練された分析技術がどのような場合に価値を発揮するのか、そしてなぜそうした技術が一般に思われているよりも身近なのかを示している。
この方法は反復的で柔軟性があり、素早く適用して大まかな回答を得たり、じっくり適用して微妙なニュアンスを含むよう微調整した回答を得たりすることができる。
また本書は、近年明らかになった意思決定における人間のバイアスに抗う方法を示している。個人的な人生の決断から、ビジネスや非営利団体の問題、社会が直面している最大の政策課題まで、ほぼすべての種類の問題に有効である。
長年ランナーである私は、膝の手術を受けるかどうかについてのロブの分析に特に惹かれた。また、漁業や教育資金などに関する複雑な政策決定に対して、有権者が対応を検討するのに役立つわかりやすい分析にも感銘を受けた。
当然、事業戦略や収益性向上などの分析も楽しく読んだ。社会・環境問題には本当に手に負えないものがあるが、この方法論は、気候変動や肥満対策など、最も厄介な問題の解決にも光を当てることができる。
この種の本を書くのに、この2人の著者以上にふさわしい人はいないだろう。チャールズは、私たちがトロント事務所の若手コンサルタントだったときに、マッキンゼーの問題解決に関する社内資料として「完全無欠の問題解決への7つの簡単なステップ」を起草した。この資料は、世界中のマッキンゼー事務所から最も閲覧要求の多かった専門能力開発文書の1つとなった。
また、私はロブとは35年以上の付き合いで、初めて彼に会ったのは、オーストラリア最大企業のCEOの時間をいかに活用するかというプロジェクトを一緒に取り組んだのが始まりだった。
チャールズとロブはマッキンゼーにいる間、他の同僚と協力し合い、現在も使われている「成長戦略のための地平線までのアプローチ」を開発した。彼らが会社を辞めた後でも、起業家として、そして非営利セクターの変革者として、問題解決メソッドを実践し続けているのを見るのは楽しかった。近年では、チャールズがローズ財団の戦略開発と変革にこの独特の考え方を導入するのを、私は間近で見た。
問題解決力は21世紀のコアスキルである。誰もが知るべき、誰もが実施できる正しい問題解決ガイドがようやく完成した。
マッキンゼー・アンド・カンパニー 元マネージング・ディレクター
ドミニク・バートン
(『完全無欠の問題解決』序文より)
【ダイヤモンド社書籍編集部からのお知らせ】
『完全無欠の問題解決』
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