「あれ? いま何しようとしてたんだっけ?」「ほら、あの人、名前なんていうんだっけ?」「昨日の晩ごはん、何食べんたんだっけ?」……若い頃は気にならなかったのに、いつの頃からか、もの忘れが激しくなってきた。「ちょっと忘れた」というレベルではなく、40代以降ともなれば「しょっちゅう忘れてしまう」「名前が出てこない」のが、もう当たり前。それもこれも「年をとったせいだ」と思うかもしれない。けれど、ちょっと待った! それは、まったくの勘違いかもしれない……。
そこで参考にしたいのが、認知症患者と向き合ってきた医師・松原英多氏の著書『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』(ダイヤモンド社)だ。
本書は、若い人はもちろん高齢者でも、「これならできそう」「続けられそう」と思えて、何歳からでも脳が若返る秘訣を明かした1冊。本稿では、本書より一部を抜粋・編集し、脳の衰えを感じている人が陥りがちな勘違いと長生きしても脳が老けない方法を解き明かす。
褒めて伸ばすのは
子どもも認知症患者も同じ
【前回】からの続き 教育の世界では、「子どもは褒めて伸ばせ」とよくいわれます。褒められたら誰でも嬉しいので、それが成功体験となって前向きになり、「できない」ことが、どんどん「できる」ようになる効果があるのでしょう。
褒めて伸びるのは、子どもだけでなく、認知症の患者さんも同じです。私は、前述したボランティア電話で、毎月の合言葉と日付の確認を終えた後、「じゃあ最後に、いつものをやろうか」と声をかけてから、「あいうえお」「かきくけこ」といったあいうえお表の行を大きな声で一緒に唱えています。
そして見事に声に出してやりとげたら、「今日も絶好調じゃない!」とか「スゴい、よくできたね!」などと褒めちぎるようにしています。電話ですから、患者さんの表情まではわかりません。ですが、私が褒めると、「ありがとうございます」「よくできましたか!」と、患者さんの声のトーンが途端に明るくなります。
「できない」ことを叱らず
「できる」ことを褒める
きっと、顔色も明るくなっているでしょう。褒められて嬉しくなるのは、子どもも認知症の患者さんも同じなのです。認知症が進むにつれて「できる」ことが減り、「できない」ことが増えてきます。子どもの頃と、時計の針が逆行するのです。
着替え、トイレ、食事、入浴……。あたり前のようにできていたことが、認知症の進行によってできなくなってくると、家族などの介護者から「なんでこんなことができないの」と叱られる機会が増えます。
子どもを叱ると、どうなるでしょうか? ションボリしてやる気を失ってしまいますよね。それは認知症の患者さんも同じです。認知症の患者さんは、叱られたとしても、自分が何をしたかを忘れています。悪いことをしているという自覚は、まるでありません。
できることを増やし
問題行動を減らす
家族などの介護者は、認知症の患者さんの言動を、理不尽に感じる場面が多いでしょう。しかし、患者さんの立場になってみると、叱る介護者の言動こそが理不尽に感じられるケースも少なくないのです。「わかってくれない!」という思いで患者さんが孤独を深めると、症状が悪化する恐れがあります。
家族などの介護者側は、「できない」ことを指摘するのではなく、「できる」ことを見つけて褒めるようにしてください。自分が味方だと思っている人から褒められると、患者さんは嬉しいものです。孤独に陥らず、自尊心も高まります。「できる」ことを増やして、認知症による問題行動を減らす効果も期待できるのです。
※本稿は、『91歳の現役医師がやっている 一生ボケない習慣』より一部を抜粋・編集したものです。(文・監修/松原英多)