指を脱臼させられ、あげく東京ドームに集まった6万2000人の前でスリーパーホールドで落とされ、失神させられるという失態をさらしたのだ。

 試合にこそ勝利したが、あの屈辱は忘れようとしても忘れられるものではない。アントニオ猪木という人間の怖さを思い知らされた一戦だった。

なぜ猪木さんは俺に懐刀を抜いたのか?

 猪木さんのスリーパーで絞め落とされたのは屈辱でしかなかった。

 大の男が超満員のファンの前で失神する失態をおかしたのだ。思い出すと、何年経とうと悔しさと怒りに震えるが、猪木さんの絡みつき、喉に食い込んでくるスリーパーは本当に気がついたら落ちていたという感覚だ。

 左腕が巻きついてきた時、これがアントニオ猪木のスリーパーか、こんな細い腕ならどうってことないだろうとタカをくくっていたのだが……。

 当時の新日本プロレス現場監督の長州力に頬を張られて、なんとか意識を取り戻すことができたが、その後、指を脱臼もさせられた。ロープ際の攻防だった。気づいたら指が反対側に向いていた。

 スリーパーで落とされた上に脱臼まで……これで俺は吹っ切れた。コノヤロー! と火がつき、猪木さんからの勝利という、いまなお誇ることができる金看板を得ることができたんだ。

 ただ……ふと思う。逆に俺が猪木さんの立場に立った時、対戦相手を絞め落とし、指を脱臼させるなんてできただろうか。並のレスラーじゃその一歩を踏み込むことはできない。

 じゃあ猪木さんはなぜ仕掛けてきたのか。そこには猪木さんの「お前がメインイベントに出てくるなんてまだ早いよ」っていう思いをぶつけてきたんじゃないかな。