市場では、主要通貨に対するドル高を受けて、アジア通貨危機の再来を懸念する声もある。だが、米著名投資家のケン・フィッシャー氏は、現在は当時と状況が異なると主張。さらに、そもそも為替の変動と株式パフォーマンスを結びつけること自体がナンセンスだと説く。
「通貨懸念」は悲観ムードを反映
アジア通貨危機時とは状況が異なる
上昇する米ドルは、アジア市場からの投資の大量逃避を誘発するだろうか?貿易加重ベースの世界通貨バスケットに対し、米ドルが今年1割超の上昇を見せてきた中で多くの専門家がそう懸念する。
ドル/円相場150円への急騰や、日本の為替介入による投資家心理の動揺だけではない。韓国と台湾での利上げと外貨準備使用にも関わらず、米ドルは対韓国ウォンで約2割、対台湾ドルでも2割近く上昇してきた。だが、慌ててはならない。通貨懸念は、経済よりも粉砕された投資家心理の反映であり、反直感的な強気のサインだ。
これまでの米ドル上昇の一因は米国の高金利――連邦準備制度理事会(FOMC)の利上げヒステリーに関連する――であり、2022年の無数の懸念を受けて、投資家が安全を求めているのも一因だ。
弱気派は、アジアの中央銀行が、米国の引き締めに追随する措置と自国通貨暴落の間で板挟みになっていると言う。1997年のアジア通貨危機の再来を懸念する人もいる。記憶にあるかもしれないが、あの危機は弱い通貨だけに関するものではなかった。日本の近隣諸国は外貨準備高不足にも関わらず、厳密に通貨ペッグを守ろうとした。
当時の東アジアで広く見られた厳密な通貨ペッグは弱さの原因となり、タイやマレーシアなどの国に米ドル建て債務の大量発行を促した。ドル急騰は、債務返済をより困難にしただろう。そこで当時の中央銀行は、バーツやリンギットなどの通貨を支えるために準備高を使い果たした。それが失敗してペッグは崩壊、通貨は暴落した ――デフォルトした国もあった。
今はどうか?香港――1997年にも枯渇しなかった膨大な準備高を擁する――を除き、ペッグはおおむね消滅した。その代わり、インド、韓国、台湾、その他各国の中央銀行は、固定値の維持ではなく通貨下落を減速させるため不定期にドルを売っている。日本の「ステルス」介入は投機的な攻撃に対抗するためであり、為替レートの固定が目的ではない。今は、総じて1997年よりも2012年の状況の方が似ているように見える。
確かに、タイバーツ下落は問題の前兆だと警告する人もいるが、第3四半期を通じてタイは2021年時点の準備高の80%を保持していた――1800億ドル近くあり、1997年当時の財源の枯渇とは雲泥の差だ――さらに、これは米ドルの大幅上昇後の話なのだ。
現在広く受け入れられている「英知」の一つは、通貨変動を株式パフォーマンスと結びつけることだが――完全にナンセンスだ。もし強いドルが世界株式リターンに対して悪影響を及ぼすなら、米国株は現地通貨ベースで他国市場を圧倒しているはずだ。だが、実際は違う。なぜだろうか。