個人も組織も、学ぶことは大切ですが、もはや、それだけで十分ではありません。ビジネスでも、スポーツでも、同じスキルや戦略が、そういつまでも通用はしません。常に何かを学びなおさなければいけない時代になっています。その時代のキーワードこそ、アンラーンです。学びなおす力であるアンラーンを妨げるのは、過去に達成するのに役立ったが今では限界に達している行動や方法、つまり「成功体験」だったりします。セリーナ・ウィリアムズからディズニー、アマゾン、テスラ、グーグル、NASA…事例満載でアンラーンの全貌がはじめてつかめる本、『アンラーン戦略 「過去の成功」を手放すことでありえないほどの力を引き出す』(バリー・オライリー著、ダイヤモンド社刊)から、アンラーン戦略の重要ポイントを紹介していきます。(監訳:中竹竜二、訳:山内あゆ子)
リーダーには「考える時間」すらない
今日、ほとんどのリーダーは、より迅速に意思決定を行い、急速に変化する市場に俊敏に対応し、顧客のニーズを的確に捉えるなどして、ビジネスの方法を常に変えていかなくてはならないことを認識している。古いビジネスの方法から新しい方法へと移行する際の大きな問題の一つは、組織を率いる人たちの神経回路が時間の経過とともに凝り固まり、硬直化してしまうことだ。日常業務の現場からもたらされる情報や偏った見方によって、リーダーは近視眼的なものの見方にとらわれてしまう。
即座に結果を出さなければならないという強迫観念は、過密なスケジュールと、意思決定したことを迅速に遂行することのプレッシャーとも相まって、リーダーに結果を振り返る機会をほとんど与えない。計画は問題に邪魔され、それにより状況は変化してしまい、結果、コントロールできない隠れたコストが生じる。
リーダーの多くは、問題を深く検討し、ほかの選択肢がないかどうかを「考える」時間すら取れない。その結果、短期的な業務効率の改善や、短期的な収益の確保に最適化した解決策を講じることになるが、最終的に、彼らの顧客に資するビジョンは何なのか、顧客が抱えている課題は何か、顧客のためになる体験とはどんなものか、といった観点から物事を考えられなくなってしまう。
こうなると学習することが不可能になるが、それ以上に問題なのは、自分や、自分が携わるビジネスの効力を制限し、何も得るもののない日々の繰り返しに封じ込めている行動様式や考え方を、アンラーンできなくなってしまうことだ。多くの場合、こうした現象は進歩と勘違いされてしまう。
だが、信じてほしい。そうではないんだ。
リーダーたちは忙しい合間をぬって、社外でイノベーションについて学んだり、週末のリトリート〔仕事や家庭から離れて自分と向き合う時間をつくること〕に出かけたり、国際的に名高い大学やビジネススクール、団体での1週間のプログラムに参加したりして、新しいアイデアや戦略をたくさん抱えて職場に戻ってくる。だがほとんどの場合、すぐまた快適な行動様式と思考パターンに戻ってしまう。さらに、戻ってきたとたんに直面する現実に打ちのめされる。
だから、今日の企業におけるトレーニングや自己啓発の努力のほとんどが、失敗しているのも無理はない。最近のハーバード・ビジネス・レビュー誌の記事は、アメリカの企業は従業員のトレーニングや教育に、とてつもない金額をかけていると指摘している。2015年には、アメリカでの総額は1600億ドル〔約17兆640億円〕、全世界では3560億ドル〔約39兆250億円〕だった。それなのに、仕事で成果を上げるためにトレーニングが役立ったと言う人は4人に1人しかいない。「たいていの場合、学習によって組織の業績が向上するわけではない。誰もがすぐに、元のやり方に戻ってしまうからだ」
アンラーンはそれとは違う。1回こっきりで終わりではなく、〈アンラーンのサイクル〉を繰り返すシステムなのだ。未来を見据えながら、今あるものを手放して、現実に適応するためのシステムだ。これまでに行ったことが何であれ、それが現時点ではもう役に立たない可能性があると認識することだ。時代遅れの情報から離れるタイミングを知り、新しい情報を自分の考えに取り入れ、自分の行動を現実に適応させる力を伸ばさなければならない。
勇気とは、自分がやっていることがもう役に立たないことを認識し、手放して、進歩に必要なことを実践するための行動を起こすことだ。最初の突破口は、とにかくアンラーンすべきだと気づくことだ。達成したい願望や結果を明らかにし、そのための意図的な習慣と組み合わせることによって、望む状態に向かって動き出し、並外れた成果を出すことが可能になる。
アンラーンのシステムは、私が〈アンラーンのサイクル〉と名づけた、個人や集団が成長するための3ステップのアプローチに基づいて形作られるものだ。私は何年にもわたって、優れた経営幹部や従業員、チームと協力し、アドバイスを与え、指導することで、このシステムを開発した。高い業績を上げている人々がいかにこのシステムを、ごく自然に、意識することさえなく使っているか、また、あなたが成長して影響力を持つために、自分の性格や能力を育てるための意識的な行動に、どのようにそれを利用できるかを示していこう。
〈アンラーンのサイクル〉を身につけるために必要なのは、頭がよいことでも運がよいことでもないし、やけくそになる必要もない。それはひとえに、仕事や人生でアンラーンを意図的に使ってブレークスルーを達成しようという、あなたの勇気と意欲にかかっている。