サッカーワールドカップ、スペイン戦に勝利した日本代表Photo:Patrick Smith - FIFA/gettyimages

日本代表が再び世界を驚かせた。カタール・ドーハ郊外のハリファ国際スタジアムで、12月1日(日本時間2日未明)に行われたカタールW杯のグループE最終戦で強豪スペイン代表を2-1で撃破。ドイツ代表に勝利した初戦に続く大番狂わせで、2大会連続4度目のノックアウトステージ進出を決めた。5日(同6日未明)に待つクロアチア代表とのラウンド16へも大きな期待を抱かせる、歴代の代表チームが持ち合わせていなかった新たな武器に迫った。(ノンフィクションライター 藤江直人)

グループEを
ドイツ敗退の「死の組」に変えた日本

 7分が表示された長く、苦しい後半のアディショナルタイム。ピッチ上で日本代表の選手たちが最後の力を振り絞っている中で、ベンチ前ではほほえましいやりとりが繰り広げられていた。

「イエローカードをもらってしまうから、頼むから静かにしていてくれ」

「オレはまだ1枚ももらっていなからいいんですよ!」

 ベンチ前のテクニカルエリアへ、監督以外の者が入り込めば警告や最悪の場合、退場の対象となってしまう。頭では理解していても気が付けば何度も立ち入っては大声で仲間たちを鼓舞し、そのたびに日本のスタッフからなだめられていたのはDF長友佑都(FC東京)だった。

 スタッフの必死の説得を受けて、長友はテクニカルエリアに立つのをしぶしぶやめた。代わりに、リザーブの選手たち全員で肩を組んで、スペインの猛攻に耐えている仲間と一緒に戦おうと呼びかけた。かくしてベンチ前で異例の光景が生まれた数分後に、試合終了を告げる笛が鳴り響いた。

 W杯で優勝した経験を持つドイツを初戦で、スペインを最終戦で撃破してのノックアウトステージ進出。今大会の組み合わせが決まった4月から「2強の勝ち抜けは確定」と呼ばれたグループEを、一転してドイツが敗退する「死の組」へと変えたのは、ダークホース的な存在の日本だった。

 右膝を痛めてスペイン戦の先発を外れるも後半終了間際から登場。最後を締める役割を完遂したMF遠藤航(シュツットガルト)が、日本が勝ち取った1位突破の価値に声を弾ませた。

「世界から見て、日本がこのグループを1位で突破するとは思われていなかった。だからこそ、まずはグループステージを突破して、世界へ向けていい意味で驚かそう、という意識をチームの一人一人が持っていた。そうした思いが詰まったドイツ戦とスペイン戦だったと思います」

 勝てば無条件でグループステージを突破する一方で、引き分ければドイツと入れ替わって敗退していたスペイン戦へ。ベンチ前で先頭に立ってエールを送っていた長友が、開幕直後にこんな言葉を残していた。