中東カタールで開催中のW杯で、日本代表が痛恨の黒星を喫した。11月27日に行われたコスタリカ代表とのグループEの第2戦で0-1と敗れ、強豪ドイツ代表から世紀の大金星を奪った初戦に続く連勝を逃した。初戦でスペイン代表に0-7で大敗したコスタリカに、なぜ苦杯をなめさせられたのか。決勝トーナメント進出がかかる日本時間2日未明のスペインとの最終戦へ、どのような覚悟と決意で臨めばいいのかを、日本の選手たちが残した言葉から追った。(ノンフィクションライター 藤江直人)
初戦の屈辱的大敗で国民激怒
コスタリカにあった覚悟と緊張感
日本代表から勝ち点3をもぎ取った余韻が残る、ドーハ郊外にあるアフメド・ビン=アリー・スタジアムの取材エリア。コスタリカ代表と同国メディアとの間に緊張感が走った。
コスタリカの国民的英雄にして代表チームの守護神、そしてキャプテンのケイロル・ナバスが呼びかけにいっさい応じない。かつてレアル・マドリードでゴールマウスを守り、現在はパリ・サンジェルマンでプレーする35歳は笑みを浮かべたまま、取材エリアを素通りしていった。
代表チームとメディアの一触即発の雰囲気は、日本戦前日の26日から漂っていた。舞台となったのは公式記者会見が行われた、ドーハ郊外のメインメディアセンターだった。
日本に続いて登壇したコスタリカのルイス・フェルナンド・スアレス監督は、冒頭で「明日は初戦とは違う試合になる。勝ちにいく」と日本戦への抱負を語った。しかし、質疑応答で問われたのは未来よりも過去。初戦でスペイン代表に0-7と屈辱的大敗を喫した理由だった。
前半に3度、後半には4度ゴールを奪われただけではない。前後半を通じてコスタリカが放ったシュートは「0」だった。同日に強豪ドイツ代表を撃破する世紀の大番狂わせを起こした日本とは、あまりにも対照的な結果に国民は激怒。メディアもそれを受けて大々的に批判を展開していた。
挙手する記者が変わっても、マイク越しにぶつけられる質問のニュアンスは変わらない。なぜ7ゴールも奪われて負けたのか。コロンビア出身の指揮官も次第に苛立ちを隠せなくなる。
「批判することは簡単だ。そして、批判に対して反論することも簡単だ。人間はそれぞれ意見を持っているが、今は口論すべきではない。私からメッセージを送るとすれば、それは『戦い続ける』だ。戦い続けなければ、そこで終わってしまう。だからこそ、負けてもまた立ち上がればいい。そして、私はリスクを恐れていない。リスクを冒せば、必ず良い景色が見えてくる」
公式会見に同席したエースストライカー、ジョエル・キャンベルは「明日の試合では、生まれ変わった姿が見られるのか」と問われた直後に、高ぶった感情を思わず言葉に変換してしまった。
「生まれ変わる必要などない。なぜならば、私たちはまだ死んだわけではないからだ」
W杯に代表される国際大会では、練習の冒頭15分間をメディアに公開するのが慣例となっている。しかし、コスタリカはスペイン戦の翌日から完全非公開練習を敢行。取材できる機会が公式会見だけとなった状況も、チームとメディアの犬猿ムードをさらにあおっていた。
迎えたグループステージ第2戦。コスタリカはシステムを[4-4-2]から[3-4-2-1]へ、状況によっては最終ラインを5人で守る形へ変えてきた。まず失点の連鎖を断ち切る。その上でカウンターに勝機を見いだす。実際、前半は自陣にブロックを形成したまま前へ出てこなかった。
しかし、コスタリカの戦い方に日本も合わせてしまった。戦う以上はもちろん勝利を目指す。一方で先に失点する展開だけは絶対に避ける。時間の経過ともに比重が後者に傾き、カウンターを恐れるあまりにリスクを冒さなくなってしまったとDF長友佑都(FC東京)は振り返る。
「若い選手たちだけじゃなくて、僕自身もそういうマインドになっていった感じがある。こういう状況になったときにはベテランの僕や(吉田)麻也が感じ取り、前を向くような雰囲気に変えていかなければいけない。責任を感じているし、すごく反省している」