組織の屋台骨として変革を率いることが求められているミドルマネージャー。しかし実態はどうだろう。経営層の言葉をそのままチームメンバーに伝えるだけの「高級な伝書鳩」になっていないだろうか。先行きの見えない今の時代、ミドル層は社内変革のボトルネックではなく、キードライバーにならなければならない。
2022年10月23日に開催されたONE JAPAN CONFERENCE 2022では、藤野貴教氏(株式会社働きごこち研究所、株式会社文殊の知恵 代表取締役)進行のもと、坂田卓也氏(凸版印刷株式会社事業開発本部戦略投資部 課長)、関灘茂氏(A.T. カーニー株式会社 代表取締役 / マネージングディレクター・ジャパン、シニアパートナー)、田中聡氏(立教大学 経営学部 助教)、分目衣香氏(キヤノン株式会社 知的財産法務本部 グローバル知的財産支援課 課長)とともに、ミドル層が企業内で変革を起こすために必要な要素について議論した。(構成/矢野由起)
ミドル層を変革のキードライバーにするための5つのキーワード
A.T.カーニー株式会社 代表取締役/マネージングディレクター・ジャパン、シニアパートナー
1981年神戸市生まれ。2003年に神戸大学経営学部卒業後、A.T.カーニー入社。2014年にパートナー就任。2020年1月から代表取締役。INSEAD(欧州経営大学院)MAP修了。消費財・小売を中心に、自動車、金融、製薬、エンターテインメント等の分野のクライアント企業と共に、産業・商品・サービスの創造や大企業の変革プロジェクトに従事。経済産業省「新たなコンビニのあり方検討会」委員、グロービス経営大学院、K.I.T.虎ノ門大学院、大学院大学至善館、特定非営利活動法人ISLにて講義やゼミを担当。
藤野貴教氏(以下藤野) 日本は今、本物の変革リーダー不在の数十年を過ごしてきました。もはやVUCAという言葉自体がナンセンスになりつつあるなか、私たちは自分の頭で考えて動いていかなければなりません。このセッションでは、ミドル層の現状とあるべき姿、そして企業のキードライバーとして変革を進めていくために意識すべきことをディスカッションしていきます。
まずは、ミドル層が企業変革のキードライバーとなるためのキーワードをパネリストの皆さんに伺いたいと思います。私のキーワードは「変革の同志を見つけること」です。管理職になると「すべて自分でやらなければならない」と抱え込んでしまう人が多い。そんなミドルだからこそ、社内外に同志を見つけることが大事だと考えています。
加えて、「管理する=マネジメント」という認識自体が時代遅れになっていると認識すべきです。経営層の話をそのままメンバーに伝えるだけの存在であればAIでいい。トップのメッセージを自分なりに翻訳してメンバーに伝え、反対に現場から出てくる不満の声を自分の頭で解釈して何が問題なのかをトップに伝える。すなわち具体と抽象の往復を行うことが、ミドルマネジメントに求められているのではないでしょうか。
関灘茂氏(以下関灘) 私が考えるキーワードは「人間的魅力」です。A.T. カーニー株式会社という経営コンサルティングファームで多くの方々とお会いする機会があります。昇進を続けられている方々は人間的魅力が増していると感じます。人間的魅力がある方の周りには、「この人のために協力したい」という仲間が集まってきます。「同志」と言ったほうがいいかもしれません。このような人のもとでは、創造と変革が起きています。多様な人材を吸引し、それぞれの潜在能力を解き放つような魅力あふれるミドル層が増えていくと、この世界もよりよい方向に進んでいくのではないでしょうか。
坂田卓也氏(以下坂田) 私は、次世代の変革型リーダー創出プログラムである「ONE JAPAN ミドル変革塾」で教わった「ロマンと算盤の10年の道」をキーワードとして挙げたいと思います。組織は人間の集合体ですので、やはりロマンは重要な要素です。一方、ファイナンスに問題がないか判断するための算盤も持たなければいけません。その両輪があるか。そして、当事者意識を持つだけではなく、当事者として自らトライしているか。そのための仲間はいるのか。それらを意識することが大切なのだと、日々の業務やミドル変革塾のなかで感じました。
分目衣香氏(以下分目) キヤノン株式会社に入社して知財一筋の私は「堅実、かつ大胆に」をキーワードとして挙げます。なぜなら、大企業で変革を起こすには、既存の何かと紐付けてオフィシャルに動ける大義名分をつくったほうが進みやすいと感じているからです。ミドルの役割は、変革の要素を経営方針にうまく紐付けて、自部門の中期計画の起爆剤になるよう組み込むこと。オフィシャルに動ける場を堅実につくり、大胆に活動を進めていけるかどうかが、ミドルの腕の見せ所です。
田中聡氏(以下田中) 皆さんと対照的なキーワードかもしれませんが、私は「孤独のすすめ」を挙げたいと思います。ミドルマネージャーの皆さんは、普段から多くのことを求められており、大変忙しいですよね。そのようななかで、自分自身と向き合う時間をあまり取れていないのが実情ではないでしょうか。「企業が実現したいことではなく、あなた自身が実現したいことは何?」と問われても、なかなか答えられない。悪く言えば「思考停止した高級伝書鳩」になっている可能性があるわけです。そうして役職を去ることになってしまったり、メンタルダウンしてしまったりするケースが珍しくない。
このような悪循環を断ち切るために必要なのが「孤独」ではないかと考えています。孤独は孤立とは異なり、他者との断絶が必要なわけではありません。心のなかに自分だけの個室を持つようなイメージです。他者との対話も大切ですが、孤独の境地で自分自身ととにかく向き合うこと。それが今のミドルにもっとも求められていることだと思うのです。孤独を起点に、個としての野生精神を自分のなかに取り戻してほしいですね。