ミドル層の「思考停止」を防ぐための処方箋とは

組織にとって都合のいい「伝書鳩」になっていないか?ミドルマネージャーを組織変革のキードライバーにするためのポイントとは坂田卓也(さかた・たくや)
凸版印刷株式会社事業開発本部戦略投資部 課長
2005年凸版印刷入社後、出版、広告、玩具、ゲーム、駐車場・カーシェアリング、コミュニケーションプラットフォームなどの業界のマーケティング・新規事業支援に携わる。2014年より、経営企画に異動し、経営戦略部に所属。次世代の事業の柱を構築するべく、社内の新事業支援を実施。現在、事業開発本部戦略投資部にて、新事業創出を目的としたベンチャー投資およびM&A業務に従事。26社のスタートアップに出資。

藤野 本来、経営層がリードしてミドル・現場と一体になり、変革を成し遂げていくのが理想的な姿です。しかし、この三者間で対立が起きているのが実態だと感じています。ミドルは本業のなかで変革のためのアクションを取ろうとするも、経営層は現場を見ずに動き、現場は経営層にアンチテーゼを述べるだけになっている。このような状況下でミドルの思考停止が起き、さらには労務管理と忖度で身動きが取れなくなっている。ミドルが企業にとって真に意味のあることを成すためには、何をしていくべきなのでしょうか。

関灘 業界や企業、個々人によって答えは異なると思いますが、2点お伝えします。1点目は、各人が「強い個」になることです。そのうえで、「経営を語れる個」や専門分野に深さがある「尖った個」になることです。その後、創造や変革を成し遂げていくような経営を担う人材になっていく。このようなステップがあると考えています。最初の「強い個」になるステップを踏むことで、周囲の信頼や共感を広く深く得られるようになってほしいです。

「強い個」とはどのような人なのか。それは、問題発見能力や問題解決能力、口頭でのコミュニケーション能力、資料や試作品の作成能力などを持ったうえで、周りを動かしていく力を持つ人です。弊社では「感動品質」と呼んでいるのですが、周囲が「感動した」と言ってくれるような成果物を生み出せる個人になることが、「強い個」になるということだと考えています。

 もう1点は、トップになるべきだと思う人を見つけて応援することです。これは、ある大企業のミドルの方を見ていて気づいたことでした。その方は、本当にトップに立ってほしいと思える人を見つけ、共同プロジェクトを提案したり、苦手な部分をサポートしたり、人を紹介したり、とさまざまな方法で応援していたのです。実際、ミドル層がいきなり大企業のトップになることは難しいと思います。現実には、ミドル層の上の層にいる人たちが先にトップになっていく。次に就任するトップがよりよい人であれば、会社は必ずよりよくなります。ミドルはその循環をつくれるのです。

藤野 トップに立つべき人にとってのいいチームメンバーになることも、ミドルの役割のひとつだということですね。変革リーダーに立てる人とは、具体的にどのような人物像が挙げられるでしょうか。

坂田 変革リーダーに求められるのは、ミリ単位の細かい調整を行いながら、当事者として意思決定することだと思います。これは、AIに代替できないことであり、今後ミドルが変革を起こすうえで必要な要素でもあります。私はずっと「当事者意識」という言葉を口にしていたのですが、「当事者」でなければならないのです。そこが私に足りない部分であり、経営層の期待とのギャップだったのだと、最近になって気づかされました。関灘さんのお話にもあったように、さまざまなスキルを磨くことがミドルには必要なのかもしれません。

組織にとって都合のいい「伝書鳩」になっていないか?ミドルマネージャーを組織変革のキードライバーにするためのポイントとは分目衣香(わんめ・きぬか)
キヤノン株式会社 知的財産法務本部 グローバル知的財産支援課 課長
キヤノン株式会社に技術系(物理)で入社。以来、知的財産の部門一筋のキャリアを歩み、特許技術職、訴訟部隊、ブランドマネジメント、新規事業推進を経験。2021年よりグローバル知財支援課でグループ会社の知財支援に当たる。その他、社長直轄の新規事業プロジェクトなど複数の横断チームで活動。また、2022年秋からは東京大学の客員研究員として、企業の新規事業を担うメンバー相手に、未来を創る人を育むプログラムのメンタリングマネージャーを務めている。

分目 当事者として思考することも大切ですが、他者に「与える」ことも非常に大事だと感じています。ミドルになると、小さな決定権が与えられるようになりますよね。それはつまり、チームメンバーに対して何かを与えられる立場であるということです。上下だけでなく斜めとのつながりもつくり、上も下も動きやすい場をつくることがミドルには求められているのではないでしょうか。

 たとえばチームメンバーが新しいことをやりたいと言ってきたとき、ネガティブな反応をする上の人に対して、「これによって企業に価値が生まれる」と説明できれば、活動は担保されてオフィシャルに動ける場づくりが可能になります。知財部門であれば、「特許を取っておけば会社に知的財産を残せる」「今すぐ事業化できなくても他社への交渉カードにできる」などといったルートを説明することで上の人たちを説得できます。他の部門でも、組織の特性や役割を解きほぐして組み直せば、活動の場を広げられるはずです。現在ミドルの方やこれからミドルになる方には、ぜひ変革を進めるためのルートを複数見つけて説明できるようになってほしいと思います。

藤野 変革を進めるとき、ミドルが「こういうやり方がある」「世の中はこうなっている」とわかりやすく翻訳することは、経営者にとってもありがたいことだと思います。それを当事者として実践することが大事ですよね。今のお話には、経営企画部門でなく、事業部門からでも変革を始めるためのヒントがあったのではないでしょうか。