限られた時間をいかに楽しむか、に目を向ける

ハリス そろそろ新しい本の話に戻ろうか。ニュージーランドの森に籠って2年ぐらいで書いたの?

四角 3年間ですね。

ハリス 3年間籠って書いたのが『超ミニマル主義』という本で、かなり売れてるんだよね、今。

四角 そうなんですよ、お陰様で早くも3刷で(2022年12月現在、5刷)。いろいろなランキング上位に名を連ねています。

ハリス すごい!どういう内容の本なんですか?

四角 いかに物事をミニマルにしていくかという内容です。僕は「幸せになるためには多くのものはいらない」ということに、20代で気付いていたので、レコード会社でいくら周りに騒がれたり褒められたりしても、一切執着しませんでした。物、情報、ToDo、人付き合いが少ないほど、人生は深まって豊かになるという持論もあって。これまで出した本も、「捨てる」「やらなくていい」というタイトルばかりで。

ハリス そうだよね。

四角 引き算思考の本ばっかり書いてきたんですけれども、『超ミニマル主義』はその集大成。僕は「彫刻本」と呼んでます。

ハリス 彫刻本?何で?

四角 レコード会社時代にアーティストのプロデュースをやっていましたが、僕、パッと人を見た瞬間に、その人の中に眠る彫刻作品、つまりその人の本来の姿が見えるんですよ。感覚的な話なんですけど。

ハリス へー!

四角 「僕は何の答えも持ってない、答えはあなたの中にある」と、アーティストと仕事を始める時に必ず言っていました。

 その答えを一緒に見つけ出すのがプロデューサーの仕事で、言葉を変えると「あなたの中に眠る完成品(彫刻作品)を、できる限りそのまま削り出すお手伝いをします」と。彫刻に成功すれば、唯一無二の存在になって誰もが強い光を放ちます。それが人に、世の中にポジティブな影響を及ぼすようになる。

 この本を読んでもらえれば、僕から、2年ぐらい寄り添うプロデュースを受けたぐらい、本来の自分をどんどん削り出せるようになるんです。

ハリス なるほどね。

四角 本の中では、最初は「もの」から入ります、簡単なんで。

ハリス 財布とか、部屋とか。

四角 そうなんです。財布からカバンに行って、最後は部屋まで行くんです。これらは手に取れる物質なので、削り取るのは意外に簡単なんですよ。でも、非物質なものは難しくて

ハリス たとえば?

四角 情報とかとか、スケジュールとかタスクとか人付き合いとか。

ハリス いちばん難しいね。特に日本に住む人間にとってはね。

四角 この本はまさに、お金持ちになるためじゃなくて、時間持ちになるためのノウハウ本なんです。

ハリス 人生という限られた時間の中で、いかに自分を楽しむかだよね。

四角 例えば寿命が85年だとして、「85年っていう時間=命」じゃないですか。なのに、現代人は「忙しい、忙しい」って命(時間)をどうでもいいことに費やし、人生を終えてしまう。

ハリス 追われてる生活なんだよね。

四角 日本では小学生から「忙しい」って言い始めるんですよ。そして就職して、定年までずっと「忙しい」と言い続ける。

 そんな人生は決して豊かではないと若い時に気付きました。お金や物質的な豊さやを手放してニュージーランドに移住して、「時間持ち」になって本当によかったと断言できます。あの頃よりも、今のほうが人生は圧倒的に豊かです。

 世の中には「お金持ち」になるための本が溢れていますが、「時間持ち」になるための技術書はほぼ存在しない。なぜなら、多忙を強いる資本主義社会において、そのノウハウを伝えるのは簡単じゃないからです。今回は、その難題に挑戦したため、大全のようになってしまった。

ハリス 中身は非常にリアリスティックだよね。

四角 そうですね。約70もある細かな技法を紹介しています。物質は小さな財布から始まり、仕事デスクから部屋まで網羅し、非物質はスマホから始まって、最後は習慣と考え方まで及びます。

ハリス 素晴らしい!ぜひ皆さん、興味があったら手に取って、買って読んでみてください。分厚いから、ちょっと重いですけどね。(笑)

四角 はい、かなりボリュームありますが(笑)。

ハリス 今日はほんとにどうもありがとう。

四角 ありがとうございました。

(対談了)

『超ミニマル主義』では、「手放し、効率化し、超集中」するための全技法を紹介しています。

ラジオ番組のご紹介
■番組名:Otona no Radio Alexandria
■出演者:Robert Harris
■放送局:interfm(TOKYO 89.7MHz)
■放送時間:毎週月~金曜日、11時00分~12時55分
■番組内容:ロバート・ハリスが送る、プレミアム世代へ向けた文化情報発信番組。
ラジオとともに時代を駆け抜けたプレミアム世代にとっての新たな”サード・プレイス”として、
心躍る懐かしの音楽とともに、好奇心をくすぐる雑談を添えて、”様々な生き方”のヒントを共有していきます。
自由であり続けるために、自分に課した3つのこととは!?【ロバート・ハリス×四角大輔】四角大輔(よすみ・だいすけ)
執筆家・環境保護アンバサダー
1970年、大阪の外れで生まれ、自然児として育つ。91年、獨協大学英語科入学後、バックパッキング登山とバンライフの虜になる。95年、ひどい赤面症のままソニーミュージック入社。社会性も音楽知識もないダメ営業マンから、異端のプロデューサーになり、削ぎ落とす技法でミリオンヒット10回を記録。2010年、すべてをリセットしてニュージーランドに移住し、湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営む。年の数ヵ月を移動生活に費やし、65ヵ国を訪れる。19年、約10年ぶりのリセットを敢行。CO2排出を省みて移動生活を中断。会社役員、プロデュース、連載など仕事の大半を手放し、自著の執筆、環境活動に専念する。21年、第一子誕生を受けて、ミニマル仕事術をさらに極め――週3日・午前中だけ働く――育児のための超時短ワークスタイルを実践。著書に、『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』(サンクチュアリ出版)、『人生やらなくていいリスト』(講談社)、『モバイルボヘミアン』(本田直之氏と共著、ライツ社)、『バックパッキング登山入門』(エイ出版社)など。