全国3000社が導入し、話題沸騰のマネジメント法「識学(しきがく)」の代表・安藤広大氏。「リーダーの言葉は遅れて効いてくる」「仕事ができる人は数値化のクセがある」などの考え方が、多くのビジネスパーソンに支持されている。近刊の『数値化の鬼』では、「感情を横に置いて、いったん数字で考える」「一瞬だけ心を鬼にして数値化する」など、頭を切り替える思考法を紹介した。
この記事では、最近、経営者の間で話題となっている「人的資本経営」という概念について語る。これからのビジネスパーソンに必須の概念を、ぜひ身につけてほしい。

【3000社の会社を見てきてわかった】ダメな若手社員が「MVPを取るエース級」になるまでの共通点Photo: Adobe Stock

「給料が下がること」のメリット

 あなたは、会社にとってプラスの存在でしょうか、マイナスの存在でしょうか。

 もし、マイナスの存在になっているとしたら、その事実を1日でも早く社員に伝えることが、会社と社員の双方にとってプラスになります。

 それでは、どのような方法でそれを伝えればいいのでしょうか。

 それは、シンプルに「マイナス評価を取り入れる」ということです。

 会社から「評価」によって、しっかりと伝えるのです。そして、その評価を「給与」と連動させ、「今」の自分の生活にマイナスが起きる状況を作ることが大切です。

「給与が下がる評価制度なんてものを取り入れるなんて社員想いじゃない!」というような声が聞こえてきそうです。

 しかし、決してそんなことはありません。

 自分の給与に連動することで、「このままではマズい」ということを認識させられるからです。

 自分にとっての「痛み」になることで、「今の自分はマイナスの存在なんだ」という事実を正しく認識できるのです。

 多くの会社では、評価が低い場合でも、給与は現状維持をキープできていたり、年齢給で右肩上がりだったりしたら、「別にこのままでいいんだ」「このまま会社にい続けることができる存在なんだ」と認識してしまいます。

「社外で通用しないこと」が最大の恐怖

 これは前回に書きましたが、もっとも最悪な未来は、「自分が気づかない間にマイナスが溜まり続けて、ある日、突然、戦力外通告を出されること」です。

 もし早いうちから危機感があれば、若いときにスキルを磨くことができたのに、実力が身につかないまま、外に放り出されてしまいます。

 すると、他社や他業界で、まったく通用しない人材になってしまうのです。

 そうならないために、社員がマイナスの存在になったときには、「ちゃんと給与を下げてあげる」ことで、現実を認識させるのが大切なのです。そうすることで、しっかりと正しい危機感を持って自分の不足と向き合うことができ、成長に繋がっていくのです。

急成長・飛躍する社員の共通点

 私の会社でも当然、「マイナス評価」を取り入れています。

 これまで、20年以上の社会人生活を過ごしてきましたが、今の会社で初めての経験をしました。

 それは、入社から2~3年の間、ずっと鳴かず飛ばずだった社員が、急に活躍するようになり、エース級の活躍をしていくという経験です。

 それも、1人や2人ではなく、数多くの事例があります。

 これは、まさにマイナスの存在になっているという事実を突きつけ続けてきた効果だと実感しています。急成長した社員の中でMVPに選ばれる人も少なくなく、彼らの表彰時のコメントには、ほぼ例外なく、

日々、不足と向き合ってきました

 という言葉が出てきます。

 事実を突きつけられた中で、逃げずに不足に向き合い続けた結果、あるタイミングで大きく飛躍するチャンスを掴む。

 人間が成長する仕組みは、まさにこういうことなんだと思います。

マイナス評価が「会社への不満」にならないために

 マイナス評価を取り入れる上で、1つ注意点があります。

 それは、評価はできる限り「定量評価」で行なわないといけない、ということです。

 事前に求められる状態を「定量的」に表現したものを評価項目として設定して、その評価項目の達成度合で評価をしなければいけません。

 事前に「定量的」な目標設定さえできていれば、達成できなくてマイナスの評価を受けたときに、その悔しさのベクトルは「達成できなかった自分」に向きます。結果を「自責」で捉えられ、改善に向けて努力することができます。

 一方で、「定性的」な評価基準だとどうなるでしょうか。

 定性評価は、曖昧な基準なため、マイナス評価を受けたときに、「ちゃんと自分のことを見てくれていない上司が悪い」と認識したり、「わかりにくい評価制度が悪い」と自分以外に要因を探す確率が高くなります。

 そして、会社に対する不満につながってしまうのです。悔しさのベクトルが自分に向かないので、努力や成長に結びつきません。

 マイナス評価を与えるためには、評価基準が明確でないと、得たい効果を得ることができません。それどころか、組織内に多くの歪みを生み出す要因になるので注意が必要です。

 次回は、エンゲージメント、モチベーションという言葉について取り上げましょう。

安藤広大(あんどう・こうだい)
株式会社識学 代表取締役社長
1979年、大阪府生まれ。早稲田大学卒業後、株式会社NTTドコモを経て、ジェイコムホールディングス株式会社(現:ライク株式会社)のジェイコム株式会社で取締役営業副本部長等を歴任。2013年、「識学」という考え方に出合い独立。識学講師として、数々の企業の業績アップに貢献。2015年、識学を1日でも早く社会に広めるために、株式会社識学を設立。人と会社を成長させるマネジメント方法として、口コミで広がる。2019年、創業からわずか3年11ヵ月でマザーズ上場を果たす。2022年7月現在で、約3000社以上の導入実績があり、注目を集めている。主な著書に、シリーズ60万部を突破した『数値化の鬼』『リーダーの仮面』(ダイヤモンド社)がある。