歴史上、疾病、戦争、飢饉が人口にマイナスの効果をおよぼす理由であり続けました。しかし、日本を筆頭とする人口減少は「死なないこと、産まないこと」が理由となる初めての人口減少です。その結果、日本では高齢者の割合が突出して増え、政治的に高齢者が政権を掌握していると言っていい状況になっています。世界の2022年、世界人口は80億人を突破したと国連が発表しました。70億人からわずか11年、このまま人間が増えると、環境問題、食料問題をはじめ「地球は大丈夫なのか?」と懸念する声にあふれています。このアンバランスをどう考えればいいのでしょうか?『米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測』(ジェニファー・D・シュバ著、ダイヤモンド社刊)を刊行したばかりの、世界の人口統計学の権威の見方を紹介します。(訳:栗木さつき)

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日本が流行の最先端?

 非常に低い出生率への移行の直接的な結果として挙げられるのは、国によっては人口が高齢化するだけでなく、減少していることだ。ドイツの人口は2005年に、日本の人口は2010年に減少が始まっていて、こうした国々はいわば流行の最先端を走っている。

 国連のデータによれば、2015年から20年のあいだに日本の総人口は150万人減少し、2035年にはさらに930万人減少すると予測されている。

 日本の国立社会保障・人口問題研究所の推計では、日本の人口は2065年には8800万人にまで減少する―つまり2015年から3900万人減ることになり、これはチリとマリの人口の合計数に相当する。

 その頃には、日本では65歳以上の高齢者が人口の40%という記録的な割合を占めることになるだろう。文字どおり、日本はイッツ・ア・スモール・ワールド(小さな世界)になるのだ。

 それでも、多くの国の人口がいまだに若く、急増しているため、世界人口はまだ増加しているが、国連は今世紀の終わりには先進国の70%、開発途上国の65%で人口が減少すると予測している。

疾病、戦争、飢饉によらない歴史上初の人口減少

 歴史をひもとけば、これまでにも人口が減少した時期はあった。たとえば1840年代から1950年代にかけて、アイルランドでは大飢饉によって100万人が命を落とし、さらに大勢の人たちがより良い生活を求めて海外に移住せざるを得なくなり、人口が減少した。

 ところが、このアイルランドの事例や、ほかの感染症や海外への移住といった似たような事例をいくら見ても、私たちがいま目にしている状況を理解する参考にはならない。

 つまり、少産少死が原動力となって年齢構造の根本的な変化が生じ、その結果、初めて人口が減少しているのだ。

 さらに、もう元には戻れないとも思われる。疾病、戦争、飢饉が引き起こしたこれまでの人口減少は、公衆衛生の向上やテクノロジーの進展によって改善されてきた(戦争は例外)。

 しかし、今日では公衆衛生の改善が一因となり、長寿化と小家族化がもたらされた結果、人口が減少しているのだ。

 さらに、女性が自身の出産をコントロールできるようになったため、男女ともに以前より少ない数の子どもを持つことを選択している。

人口が減少していても経済は成長すべきか

 人口縮小は本質的には必ずしも悪いことではないが、これまでの経済理論はこのような条件の下で考えられたものではないため、この大きなシフトを理解するための知識がまだ蓄積できていない。

 たとえば、健全な経済状態の指標は消費の増加とGDPのプラス成長だが、総人口が年2~3%の割合で減少しているときにも、それと同じ比率でGDPが成長する必要があるのだろうか?

 人口減少へのシフトに直面すれば、経済学者や政策立案者はこうした議論を迫られるはずだが、行政においても学者のあいだでも、根本的な疑問が論じられていないのが現状だ。

 人口の若い社会はきわめて不安定な場合が多く、雇用の創出、統治、社会的調和を発展させるうえで困難をきわめる。だからといって、高齢化した社会に問題がないわけではない。

 カート・ヴォネガットが描いた小説世界は極端だとしても、世界各地ではもっとも高齢の世代が若者よりはるかに高い割合で政権を掌握し、投票し、政治に携わっていることは否定できない。