現代の経済理論はすべて、人口増加には際限がないことや、少なくとも、労働力が人口高齢化によってどんどん縮小する事態になることなど予測できない時代に考案されたものです。しかし現在、日本で起こっていることは、こうした経済理論の前提が現実に合っていないことを示すはじめての出来事なのです。世界の知性たちも、まだこの状況に困惑しているように見えます。2022年、世界人口は80億人を突破したと国連が発表しました。70億人からわずか11年、このまま人間が増えると、環境問題、食料問題をはじめ「地球は大丈夫なのか?」と懸念する声にあふれています。このアンバランスをどう考えればいいのでしょうか?『米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測』(ジェニファー・D・シュバ著、ダイヤモンド社刊)を刊行したばかりの、世界の人口統計学の権威の見方を紹介します。(訳:栗木さつき)

高齢化社会Photo: Adobe Stock

両極端な国、日本とナイジェリア

 富裕国と貧困国の人口構造には大きな違いがあるという事実を可視化する方法を紹介しよう。図表5は人口統計学者が「人口ピラミッド」(かつてはどの国でも三角形のピラミッドのような形をしていた)、もしくは「人口ツリー」(現在では多様化が進み、樹木のような形をしている国もある)と呼ぶものだ。

日本の人口ピラミッド

 これは年齢別の人口を表す横棒グラフで、右側が女性、左側が男性を示している。中央の縦軸は0歳から100歳までの5歳ごとの年齢階級を示している。これを見ればわかるように、日本はすでに2021年の時点で頭でっかちになっていて、人口の28%が65歳以上だった。

 私が人口高齢化に関する研究を始めたのは2000年代初頭で、当時はまだ新しい現象だったので、この問題に関心を持っている学者はそれほど多くなかった。人口とは着実に増えるもので、出生率は比較的安定している、それが当然だったからだ―日本の人口のような年齢構造を、人類は経験したことがなかったのである。

 ところが、いまや人口高齢化は新しくも、めずらしくもない。高齢化には拍車がかかり、多様化している。

高齢化が進む国々

 さらに、高齢化は西ヨーロッパと日本に限った話ではなくなり、図表6を見ればわかるように、高齢化を迎えた国は地理的条件、政治体制、伝統が異なり、経済的な強みや文化といった要因も国によってさまざまだ。これこそが、今後の数十年、私たちが注視すべきことである。高齢化が進む国々のこうした多様性は、高齢化に関して私たちが蓄積してきた知見にどんな問題を提起してくるのだろう?

 21世紀の人口高齢化を理解するモデルとして、本当に日本や西ヨーロッパを参考にしていいのだろうか? 現代の経済理論はすべて、人口増加には際限がないことや、少なくとも、労働力が人口高齢化によってどんどん縮小する事態になることなど予測できない時代に考案され、議論され、試されてきたものだ。だからこそ、新たな人口動態の現実に直面しているいま、何が経済を強くするのかという問題に対する取り組み方を、私たちは再評価し、見直さなければならない。

 極端な高齢化と極端な若齢化は、コインの裏表のようなものだ。図表7は2021年のナイジェリアの人口構造を示している。これを見れば、かつて人口統計学者がこうした横棒グラフを「人口ピラミッド」と呼んでいた理由がよくわかるだろう。あきらかに上部が細く、下に行くほど幅が広く、ピラミッドのような形をしていて、日本のそれとは正反対だ。国による出生率の違いが、人口構造が真逆になる一因となっている。

ナイジェリアの人口ピラミッド

 ナイジェリアの女性は一生のうちに平均5人を超える子どもを産んでいたが、日本の女性の場合は1.5人に届かなかった。

 この出生率の高さゆえ、2016年のナイジェリアの人口の3分の2以上―69%―が30歳未満だった。この横棒グラフを見れば、こうした若い社会で有効な政治体制を確立するのは難しいと、政治統計学者が考えてきたことにも納得がいくだろう。しかもナイジェリアは、世界でもっとも若い国ではない。その称号を手にするのはニジェールで、2020年の中位数年齢はわずか15歳だった。