歴史的に人口統計は政治的に利用されてきました。なかでも、移民や外国人に関する人口の情報は、時に危機的状況を生み出します。近年、フランス人は、人口に占めるイスラム教徒の割合が3分の1ほどに達していると見積もっているという。果たして実態はどうなのでしょうか? 世界の2022年、世界人口は80億人を突破したと国連が発表しました。70億人からわずか11年、このまま人間が増えると、環境問題、食料問題をはじめ「地球は大丈夫なのか?」と懸念する声にあふれています。このアンバランスをどう考えればいいのでしょうか?『米国防総省・人口統計コンサルタントの 人類超長期予測』(ジェニファー・D・シュバ著、ダイヤモンド社刊)を刊行したばかりの、世界の人口統計学の権威の見方を紹介します。(訳:栗木さつき)
フランス人は、人口におけるイスラム教徒の割合を誤解している
アイデンティティの分断が激しい状況下での国勢調査は危険をはらむものだ。また、人口データ知識の欠如も同様に危険であり、ときには恐怖心をさらに煽り立てることになる。
たとえば、アメリカやフランスでは宗教に関する国勢調査のデータがないため、大衆の恐怖心を利用する者たちによって、地域でイスラム教徒コミュニティが急増しているという荒唐無稽な統計データがでっちあげられている。
2016年にフランス市民を対象に実施された調査では、フランス人口にイスラム教徒が占める割合は約3分の1―31%―であると、フランス人は見積もっていることがわかった。しかし、ピュー・リサーチ・センターによれば、実際の数字は7.5%と見られている。
カナダやオーストラリアの先住民に対する政策を連想させるフランスの同化政策(共和国モデルとも呼ばれる)は、移民に対して「フランス人というただ一つのアイデンティティを選び、積極的に過去のアイデンティティを削ぎ落とし」、社会の結束に貢献することを期待している。
こうした同化政策の影響は、2005年、フランスの郊外(バンリュー)、つまり移民的背景を持つ住民が多い地域で起こった一連の暴動にはっきりと表れている。
暴動に加わったのは移民2世や3世の若者が大半で、フランス生まれのフランス市民も多かったが、蔓延する失業と差別に苦しんでいた。
この差別は一部の政府高官、とりわけ当時の大統領ニコラ・サルコジの状況の捉え方にはっきりと表れている。社会学者のマリー・デ・ネージュ・レオナールは、サルコジは人種的な枠組みで暴動を解釈し、いかなる正当性も、意義もないと否定することができたと指摘している。
「暴動の被害者である善良な白人市民」と、暴動に加わった「移民、イスラム教徒、郊外の“クズ”や不良ども」はまったく別の存在だと切って捨てているのだ、と。
サルコジから見れば、郊外に暮らす住民は「暴力的で反体制的な傾向があり」、「ドラッグのディーラー、ギャングのリーダー、イスラム主義者といった連中のネットワーク」を築いていた。
こうして、非行の文化や都市部の暴力行為は民族的背景と移民が深くかかわっているという考え方が、いっそう強固になったのである。