日本よりも、映画を「発明」したフランスでの評価が高い映画監督の北野武。ヤクザの抗争をバイオレンスたっぷりに描いた『アウトレイジ』シリーズが現時点での最新作だが、それから5年に亘って映画絡みの動きはなく、恐らくは引退作になると思われる。なぜこんなことを語り始めたのかというと、「全員悪人」「下剋上、生き残りゲーム」という同映画のキャッチコピーが、断末魔を迎えた日医工をめぐって繰り広げられているドラマの様相を、奇しくも言い当てていると感じるからだ。
法令違反を繰り返した挙句、患者を死亡させる不祥事を引き起こした小林化工。この事件の際、業界雀たちの間で「次の爆弾は日医工だ」と囁かれていたとおり、同社は5月に事業再生ADR(裁判外の紛争解決)を申請し、経営が行き詰まったことを内外に認めた。
その後日医工は、債務超過に陥ったことも明らかにしたうえで、11月末までに2回にわたる債権者会議を開き、田村友一社長の引責辞任と東証プライム市場からの上場廃止というケジメを表明した。それと引き換えに、ジェイ・ウィル・パートナーズとメディパルホールディングスを支援企業とする事業再生計画案の確定・決議をめざしているのは、報道のとおりである。
ところが計画案の個別具体部分に関しては、主力行の三井住友銀行以下、関係金融機関の足並みが揃っているとは言えない。加えて、利害関係者の調整役を本来果たさなければならない富山県政は、今夏、新田八郎知事が知事選で旧統一教会から組織的支援を受けていたことが明らかにされるなど、政治基盤に盤石さを欠き始めた。債権者が何度顔を突き合わせようとも、または「(破綻時の製品供給への影響が)大き過ぎて潰せない」とのポジショントークがいくら飛び交おうとも、「日医工はハードランディングを免れないのでは」と語られる一因となっている。
それにしても、工作機械の不二越、陸運のトナミホールディングスと並び称された地元のプライム市場企業の雄は、なぜ高転びしたのだろうか。
一義的には、ワンマンで鳴らした田村社長のトップとしての「能力」が足りなかったことに尽きよう。過去20年に及ぶ国の後発品拡大政策を千載一遇のチャンスと捉え、「超品質」と嘯きながら、実際には極端なシェア拡大主義に走った。数量ベースでの業界トップの座に拘り、そのためには外注利用の増加も厭わなかった。薬価が想定線を越えて下がれば事業収益はたちまち苦しくなる。
そもそも後発品業界は、日医工と沢井製薬、東和薬品の大手3社がグー・チョキ・パーの関係のように、強みと弱みを互いに牽制し合いながら各々が自律的(オーガニック)に成長してきたからこそ、本質的には脆弱性を宿すビジネスモデルに立脚していても、大きな不祥事を引き起こさずに済んできた側面がある。競争と協調のバランスが、結果として取れていた。
その秩序を破壊し、グーとチョキ(勝者と敗者)しか生まれない業界へと変質させてしまったのが田村社長だ。最大手が抗争路線に走れば、当然の成り行きとして他社も俄かに浮き足立って売上げの拡大に走り出す。無理な受注と生産を皆が続ければ、小林化工のような鎖の最も弱い部分が千切れ、その衝撃が因果応報と言うべきか日医工へと飛び火し、今や業界全体に大きな軋みが波及している。