変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、6月29日発売)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)で、IGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏だ。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていく時代。これからは、組織に依存するのではなく、一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルにならざるを得ない。同書から抜粋している本連載の書下ろし特別編をお届けする。
絶好調なスタートアップが突然、急減速する理由
私は15年以上にわたってスタートアップの経営にかかわってきました。早々に立ち上げ期を過ぎて急成長期を迎える企業がある一方で、絶好調だったはずなのに急減速する企業も少なくありません。
スタートアップを経営していると、色々な課題に直面します。予想外の高額出費で資金ショートの危機が訪れることもありますし、大企業の市場参入でいきなりシェアを持っていかれることもあります。資金調達の交渉が順調に進んでいたかと思いきや、環境の悪化でクロージング直前に破談になることもあります。
様々な経営危機を乗り越えて次のステージに進むには、素晴らしいビジネスモデルや画期的な技術力だけでは事足りません。
スキルにはアート、クラフト、サイエンスの3つがある
カナダのマギル大学デソーテル経営大学院のヘンリー・ミンツバーグ教授は著書の『Managers Not MBAs: A Hard Look at the Soft Practice of Managing and Management Development(2005)』の中で、ビジネスにおけるスキルをアート、サイエンス、クラフトの3つに分けて解説しています。
アートとは言葉のとおりセンスのようなもので、直感や感覚などを指します。動物的な嗅覚で新たなビジネスチャンスを見出す人は、アート面に長けていると言えるのではないでしょうか。ビジネススクールの科目では、戦略やリーダーシップなどはアートの要素が強いと考えられています。
サイエンスは再現性のあるもので、「Aを入力したらBになる」という方程式に落とし込めるものになります。会計や財務などの科目は、サイエンスの要素が強いと言えます。
クラフトは実務で身につけられるものが多く、業界や会社に固有のものも含まれます。強いて当てはめると、オペレーションのような実務寄りの科目がクラフトに当たります。
どのスキルが特に優れているということはなく、ビジネスを成功させるためにはアートもサイエンスもクラフトも全て必要になります。いずれかに偏重するのではなく、全ての要素を意識して身につける必要があるということです。
事業ステージによって求められる能力は異なる
なぜならば、下図に示したように、事業の局面によって必要とされるスキルが異なるからです。
例えば、事業の立ち上げ期には壮大なビジョンを描くアートが強く求められます。次に事業が軌道に乗って成熟してきたら、安定して運営するためのクラフトが求められます。そして、事業が衰退期に入ってきた際には、事実にもとづいて冷徹に意思決定をするためのサイエンスが重要になります。
なお、事業の立ち上げ期に資金繰りに詰まることがありますが、その際にはサイエンスの冷徹な目が必要になるでしょう。また、衰退してしまった事業をピボット(方向転換)するためには、アートが必要になることもあります。
そうは言っても、人が一人でできることには限界があるので、個人で身につけられないスキルはパートナーと補い合うことも必要です。優秀な創業者ほど一人で何でもやろうと頑張ってしまいがちですが、良きパートナーを見つけて長い航海に備えましょう。
『アジャイル仕事術』では、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社、2022年6月29日発売)が初の単著。