ではコマーシャルリスクの高い事業に踏み出す際、いかにしてそのリスクを低減することができるのでしょうか。

 まず大前提とすべきは、その製品の品質が市場で十分受け入れられる水準であるかということです。そして、コストにおいても世界で競争力のある水準を達成できるかということです。つまり、最も優れた品質の製品を最も競争力のある価格でつくることができるか否かが重要です。それができないならば、その事業はやるべきではありません。

 もう一つ重要なことは経営の迅速さです。私は常に意思決定、伝達、実行のすべてを時間をかけずに行うようにしています。提出された案件の良し悪しは30秒程度で判断し、案件の8、9割は即決します。残る1、2割は社内外の専門家の意見などが必要なこともあり決断を保留しますが、それについても誰といつ相談するかをすぐに決めてしまいます。

 8、9割の案件を30秒で決断するんですか。

 はい。いずれも私の知っている分野ですから、判断を誤ることはほとんどありません。一方、即断ではなく慎重に検討すべきと判断した案件については、専門家たちを交えた会議を開いています。

 その議論の際に大事なことは、知らないことを知っているふりはいっさいしないということです。わからないことは恥でも何でもありません。仕事は結果が大事です。その過程でわからないことがあれば、どんどん聞けばいいのです。一方、知らないことを知っているふりをしていても、結果を出すうえで何の利点もなく、恥ずべきことです。

 また、会議では全役員が必ずしも揃う必要はありません。案件ごとに専門知識を持った少数の役員や社員などと徹底的に議論し、その結論の責任を経営トップが負えばいいのです。こうすることで意思決定は格段に早くなるでしょう。

 実際、私が社長になって以降、会議にかける時間は大幅に短縮しました。従来は毎月2回だった取締役会を1回にし、さらに1回当たりの時間も半分にしました。また、取締役会のみならず、全社における会議時間も3分の1にまで短縮しました。

 決定事項の伝達についても、それぞれのキーマンにすぐに伝えることで時間を省くようにしています。

 意思決定においては情報収集も重要です。

 私は毎朝、自宅から会社までの車の中からシンテックの担当者に電話して、直接、製品の営業状況と市況の変化を確認しています。状況は毎日変わっているので、必ず確かめなければなりません。

 私は海外事業本部長時代から毎朝7時に出社し、9時までは現地と電話して市況などを聞いて指示を出していました。いまでも毎日、30分から1時間ぐらいは担当者と電話をしています。そうやって情報収集していると、アメリカにいなくても、市況の動向をほとんど把握できます。

 さまざまな情報がある中で、価値ある情報とそうでない雑音をどう見極めているのでしょうか。

 価値ある情報の一つは、発注が取り消されたり、納期を変更されたりすることや、それとは逆に顧客から急いで製品を納入してほしいと言われることです。こうした動きは市況変化の兆候であることが少なくありません。前日までなかった顧客の新たな動きを察知したら、すぐに販売や製造などの対応に動き出します。

 このような状況の変化には、なるべく早く対応するよう心がけています。私たちは常に市場の中にいて市況を注視して仕事をしています。