最後に、リーダーシップについてお伺いします。金川さんが考える「経営者に必要な資質」とは何でしょうか。

 まず大事なのは「執行能力」「決断力」「判断力」「先見性」の4つです。

 これらはすべてが学んで身につけられるものなのでしょうか。

 いえ、半分は先天的な要素が大きいと思います。

 執行能力や決断力というものは、実際に事業をやってみなければ会得できません。裏返せば、経験と勉強と努力によって高めることができるでしょう。

 一方、判断力と先見性は、先ほど申し上げましたように経験や勉強によるのではなく、その人の生まれ持った素質によるところが大きいと思います。いかに経験を積んでも、先見性などの“ひらめき”を要する経営判断力を磨くことは難しいと思います。したがって、こうした人の資質を見極めて、社員各自に仕事を与えなければなりません。

 経営者に必要な資質はこれら4つだけではありません。

 5つ目の欠かせない資質は「誠実さと温かさ」という人格だと思います。

 どれだけ仕事ができる人でも、誠実で人から信頼される人柄でなければ、社員たちはついてこないでしょう。私自身を振り返ってみても、社員を厳しく注意することはありますが、それは仕事のやり方に問題がある場合に限っています。けっして冷たい人間ではないと思いますよ(笑)。

 経営者には先天的な資質が求められるとなると、後継者を育成するのは難しいですね。

「経営者の最大の仕事は後継者を育てること」とよくいわれますが、私はそうは考えていません。

 経営者とは、私自身もそうですが、誰かに育てられてできるものではありません。みずからがチャンスを活かして切り開いていくものだと思います。したがって、経営者育成のための特別な取り組みは行っておりません。

 金川会長はリーダーの心構えについて、山本五十六連合艦隊司令長官の言葉をよく引用されています。ご自身が経営者として学んだことはどんなことでしょうか。

 山本長官から学んだ最大の教訓は、先を見ながら短中長期の計画を立てつつ、刻々と変わる情勢を見極めながらみずからの考えを修正し、必要ならば前言を修正する勇気を持つことです。多くの人は、いったん計画を立てるとそれにこだわる人が多いですが、計画の前提となる状況が変われば、計画自体も常に変えていかなければなりません。

 ちなみに、私の執務室には山本長官と小田切元社長の写真が飾ってあります。私が心から尊敬するお二人に恥じる行動はけっしてできません。常に正道を歩みながら成長し続ける会社を目指していきたいと思っています。

 山本長官が座右の銘とした言葉の一つに「常在戦場」がありますね。文字通り、「常に戦場にいるつもりでいなさい」という意味だと思いますが。

「常在戦場」は私も経営に取り組むうえでの心構えとしています。経営は戦いです。そして戦場では一瞬の油断が命取りとなります。経営者は常にこの心構えを持つことで、不測の事態が起きた際にも迅速に対応できるのではないでしょうか。

 一瞬の油断もできないとなると週末もゆっくり休めませんね。経営者であることに疲れたりすることはないのですか。

 経営の課題で悩んでいる時など、夜なかなか寝つけないこともあります。しかし睡眠をしっかり取らないと正しい経営判断はできません。このため、眠る前に新聞を読むなど、自然に眠るための私なりの工夫もしています。

 健康管理も企業経営も、「変化をいち早く読み取り、いち早く対処する」という点では共通しています。幸いなことに体は健康ですし、ほかに趣味もないですから、経営者であることに疲れるということはまったくありません(笑)。【完】


●聞き手・構成・まとめ|松本裕樹(ダイヤモンドクォータリー編集部) ●撮影|中川道夫