学ぶだけでは身につかない
経営者に必要な5つの資質

 話は変わりますが、金川さんは「ボスは株主」だと発言されていますね。そのボス(株主)に報いるためには株価や配当を高めることに加えて、ROE(自己資本利益率)を高めるために経営資源の効率投資が求められます。しかし一方で、金川さんは低収益な事業でも利益が出ている限りは撤退しない方針を貫いています。

 当社は塩ビやシリコンウェハーなどさまざまな事業を行っていますが、事業の新しさ古さに関係なく、利益が出ている限り、撤退は考えません。

 かつて肥料事業を行っていた当時、数億円しか利益が出ていないから止めるべきとの声が上がりました。しかし、新規事業を立ち上げて数億円の利益が出るまでには、早くても10年はかかるだろうし、利益が出ずに撤退を迫られる可能性もあります。ゼロから事業を立ち上げることの大変さを知っている経営者であれば、簡単に「止めよう」とは言えないはずです。

 大事なことは、製品に寿命があるのと同じく、「事業も需要がなくなった時が寿命だ」ということです。逆に言えば、どんなに古い事業であっても、需要があり、利益が出ている限りは、まだ寿命を終えてはいないわけですから継続すべきです。事業が生きているかどうかを測る指標は利益の有無なのです。

 このような当社の経営方針はおそらくアメリカの多くの経営者とは考えを異にするでしょう。アメリカでは古くて利益が小さい事業をどんどん切り捨て、より高収益の分野に経営資源を集中します。

 しかし、私はそれが正しいとは思いません。塩ビに代表されるように、古い事業でも経営のやり方次第で大きな利益を上げることができるのです。

 そうすると、金川さんご自身が経営者として重視している経営指標は何になるのでしょうか。

 私の経験則で言えば、まず借金が少ないことです。「会社が潰れる時は借金で潰れる」と考えています。したがって、自己資本比率は非常に重要な指標です。私が社長就任した際の当社の自己資本比率は約38%でしたが、2016年3月末では80.8%となり、無借金経営となっています。

 また、私がしばしば「ボスは株主」とお話ししていることから、ROEを高めることを最優先にしていると思われるかもしれません。しかし、私は「ROEを○○%以上にする」などと数値目標を設けているわけではありません。ROEを一時的に上げるのであれば、自社株を買って消却することで分母を減らせばよいのですが、それがはたして本当に株主へ報いることなのか疑問です。

 経営者の務めは企業価値の最大化にあることは間違いありません。

 しかし、それは一時的、短期的に株主へ報いることではなく、利益の絶対額を増やし長期安定的な成長をし続けることだろうと思います。したがって、私が最も重視しているのは、当期純利益です。毎年、当期純利益を増やしていくことこそが、最も明瞭かつ重要な経営指標だと考えています。