周囲から「出世したくないの?」と聞かれても、「だって、能力がないし向いていないんだもの」と一蹴してしまえばおしまいである。別に偉い人に取り入るために、お世辞を言う必要もない。プレーヤーとして他者と同等の仕事をしておれば、幸いなことに職を失う可能性は低いから、やるべきことだけを最低限やっておけばよい。
問題は報酬である。過去とは違って、職責が上がらないと給料も上がらない人事制度を多くの企業が採り入れているため、報酬が増えないことが想定される。これも、そこは覚悟を決めて、生活水準を上げない、消費生活以外の楽しみ方を身につける、といった方法でどうにか対処できる(会社の給与水準がそこそこ悪くなければ)。
以上を勘案すると、積極的に出世をしない人生は、かなりおすすめである。とくに、専門職志向の人にとっては明らかにメリットがある。専門性の高さで職責を高く認定してくれる会社も多いので、プレーヤーとして専門性を究めながら、報酬もそれなりに得つつ、かつ社内外の評価も得られる。こんなに良いことはないだろう。
場合によっては、その専門性でもって独立し、もといた会社をクライアントにし、他からも契約をとって報酬を得ることも可能だ。こうなると報酬も、サラリーマン時代を大きく上回る可能性がある。
問題は、ほとんどの人が、そうはいっても職責の高い業務につき、権限を行使しながら、高い報酬も得て、社内外の称賛も得たい。その一方で、激しい競争にさらされたり、上位者の機嫌とりをしたり、如才なく振る舞う緊張感のある日々を送りたくないと考えていることだ。