安倍晋三元首相の後継者的ポジションを自認し、「保守派のスター」とも呼ばれる高市早苗氏。しかし、彼女の人気を支える一面である「増税否定派」であるかのようなイメージは、実態と大きなギャップがある。なぜ高市氏は「増税派」なのに、「増税否定派」のようにメディアに報じてもらえるのか。今回は、高市氏の巧みなロジックとポジション取りに焦点を合わせる。(イトモス研究所所長 小倉健一)
高市早苗氏は「増税派」なのに
なぜ「増税待った」のような報道に?
自民党の前政務調査会長で、現在は岸田内閣の経済安全保障担当大臣である高市早苗氏。近年における彼女のメディアでの大活躍には目を見張るものがある。
2021年に行われた自民党総裁選挙で、安倍晋三元首相の支援を受けて以来、「安倍元総理の意思を継ぐ覚悟がある」として保守系言論誌の常連となり、表紙を飾ることも多くなっている。
迷走を続ける岸田政権に、閣内にあって公然と立ち向かっている姿は、新聞やテレビで大きく取り上げられることとなった。今や「保守派のスター」(「朝日新聞」、22年11月26日)とも呼ばれている。
特に注目を浴びたのは、防衛費の大幅増額に伴う財源の議論だ。新聞の見出しをいくつか並べてみよう。
読売新聞
(22年12月11日)高市早苗氏、増税検討指示に「理解できない」「会議に呼ばれず」…現役閣僚として異例の批判
(22年12月12日)高市氏の防衛増税「理解できない」発信、松野長官「考えは閣内で共有」…閣内不一致を否定
朝日新聞
(22年12月10日)「首相の真意理解できない」 高市経済安保相、防衛費増税の方針に
(22年12月12日)高市氏「覚悟はもって申し上げている」 防衛増税で首相に反論の全容
産経新聞
(22年12月12日)高市早苗氏「先に財源論で戸惑った」 防衛費増税
(22年12月14日)首相へ異論の高市氏、政権に傷 くすぶる内閣改造論
これらの見出しを見て分かる通り、防衛費捻出のため1兆円の大増税に突き進む岸田政権に待ったをかけているかのように見えるポジションを、高市氏がうまく獲得しているのが分かる。見ようによっては「減税派」、もしくは現政調会長の萩生田光一氏が主張するように、財源は国債で賄うべきという一派に所属していてもおかしくはなさそうである。
実際に、総裁選で高市氏を応援した安倍派に所属する議員や無所属議員には、増税に否定的な議員も多くいる。高市氏が、増税を否定しているという見方をする人がいてもおかしくはない。
今、「(大増税に)待ったをかけているかのように見えるポジション」と意地悪のような書き方をしたが、これは意地悪でもなんでもなく、高市氏の実態である。それなのに、あたかも「増税否定派」のようにメディアに報じてもらえるのはなぜなのだろうか。
高市氏の巧妙な立ち回りをひもとくとともに、その理由を明らかにしたい。