創業9年目で売上300億円と、急成長を遂げている家電メーカー、アンカー・ジャパン。そのトップに立つのは、27歳入社→33歳アンカーグループ最年少役員→34歳でアンカー・ジャパンCEOに就任と、自身も猛スピードで変化し続けてきた、猿渡歩(えんど・あゆむ)氏だ。「大企業に入れば一生安泰」という常識が崩れた現代、個人の市場価値を高めるためには「1位にチャレンジする思考法」が必要だと猿渡氏は語る。そんな彼が牽引してきたアンカー・ジャパンの急成長の秘密が詰まった白熱の処女作『1位思考──後発でも圧倒的速さで成長できるシンプルな習慣』が話題となっている。
そこで本書の発売を記念し、ビジネスパーソン「あるある」全20の悩みを猿渡氏にぶつける特別企画がスタートした。第12回目は、「スタートアップ企業の成長戦略」について聞いた。(構成・川代紗生)
縮小市場でも
プロジェクター事業に取り組んだ理由
──アンカー・ジャパンは、代表的な製品であるバッテリーや充電器以外にも、イヤホン、スマートプロジェクターなどさまざまな製品を提供しています。
今回は、市場を見極め、開拓するまでの手順を具体的にお聞きできればと思います。
たとえば「デジタルカメラを開発したらどうか」など、新規事業へ挑戦したいという声が社内で出たら、猿渡さんはどのように分析しますか?
猿渡歩(以下、猿渡):今の例でいえば、デジタルカメラの市場は縮小傾向にあるので、そもそも参入するべきなのか、を吟味すると思います。
もちろん、プロ用の本格的な機材を求める人もいますが、スマートフォンのカメラが高機能になってきましたから、気軽に写真を撮りたい人の多くは「スマホで充分」と考えるでしょう。
その状況で参入して「新しい価値を出せるのか?」を慎重に考えると思います。
とはいえ、市場が縮小していたら絶対に参入しないのかというと、そういうわけではありません。
たとえばスマートプロジェクター。会議室で使う従来のプロジェクター市場は縮小傾向でしたが、OSが搭載された家庭用プロジェクターの需要は伸びる可能性が高いと考えました。
結果、「Nebula(ネビュラ)」というプロジェクターブランドが生まれ、「スマートプロジェクター」というカテゴリーを新規開拓することに成功しました。
──市場によって、見極めが必要なんですね。
猿渡:どのように分析するのかは『1位思考』にも書きましたが、絶対的な正解がないため難しい部分です。
そのためアンカーグループでは、充電器やバッテリーなどのコア事業でキャッシュを確保しつつ、ロボット掃除機やスマートプロジェクターなどの新規事業に挑戦する、という戦略を取ってきました。
新規事業を次々に立ち上げ、ホームランか三振かの勝負を続けるのはリスクが大きい。
一方、ヒットだけをコツコツ打っていても成長は遅くなってしまいます。
ヒットを積み重ねて売上や利益を上げつつ、ホームランを狙う。
企業が将来にわたって事業を継続するには、このような「負けないゲーム」をすべきだと思っています。
「ブルーオーシャン戦略」の盲点
──アンカー・ジャパンは、2013年1月に事業を開始し、初年度は売上約9億円だったところ、8年後の2021年には売上300億円を突破しています。
スタートアップ企業としてすさまじい成長速度ですが、レッドオーシャン市場にあえて挑戦したのはなぜなのでしょうか?
猿渡:スタートアップには「ブルーオーシャン戦略」が必要とよくいわれますが、ブルーオーシャンだと思って参入したら実際には「ノーオーシャン」だったというケースは非常に多いです。
競争相手が多いからと誰もいない海に船を出してしまった結果、何も魚が釣れないとなると、大きな痛手を負ってしまいます。
それなら確実に魚のいるところで釣りを始めたほうが、実は負けにくいと思っています。
つまり、後発で1位になるには、レッドオーシャンでも差別化できる強みがあるかどうか、それをお客様目線でやりきれるかどうかを考えなくてはいけません。
そのためにはさまざまな方向からの仮説検証が必要です。
『1位思考』には、後発でもシェア1位を獲得するために私がやってきた習慣を出し惜しみなく書いてきましたので、同じ課題を持つ人にとって、何か参考になれば嬉しいです。
(本稿は『1位思考』に掲載されたものをベースに、本には掲載できなかったノウハウを著者インタビューをもとに再構成したものです)