無数の人間関係のイメージ写真はイメージです Photo:PIXTA

人間関係は、私たちにとって究極の問題です。なぜなら、良い仕事をするには、良質な人脈が不可欠だからです。SNS上に無数の友達やフォロワーがいても、仕事にはほとんど意味がありません。明日から職場で使える、人間関係の極意とは何でしょうか?

※本稿は、佐藤 優『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』(ジャパンタイムズ出版)の一部を抜粋・編集したものです。

直接的な人間関係――その暴力性

 まず、職場の人間関係について考えてみましょう。よく言われるのが、直接的な人間関係の大切さです。インターネットやSNSが発達して、リモートでもやり取りが自由にできる時代になりました。だからこそ直接会って話をする。食事をしたりお酒を飲んだりして付き合いを深める。直接的なコミュニケーションが大事だということです。

 たしかにFacebookで友達が何人いても、Twitterでたくさんフォロワーがいても、実際の仕事において、そのようなバーチャルなつながりはほとんど力になりません。メタバースもそうです。IT技術で構築したバーチャル・リアリティー(VR)でユーザーがアバターとなって、現実に似たコミュニケーションができるサービスです。しかし、ウクライナでの戦争のことを考えてみましょう。国土の中央部の低地を流れる現実のドニエプル川をアバターで越えることはできません。VRが現実の戦争に影響を与える力を持っていないわけで、このことは実は人間関係にも当てはまると思います。ただし、直接的な人間関係をどの程度築いていくか? その加減が実は難しいのです。

 ところで、皆さんはこの二年ほど、新型コロナ禍の影響で自宅で仕事をすることが一気に増えたと思います。Zoomで会議をしたり打ち合わせをしたりする。直接相手と対面することが大事だと教わってきたけれど、意外にこれがうまくいく。ということで、すっかりスタンダードになりつつあります。リモートに慣れてしまうと、今度はいざ対面で話すときにとても億劫に感じます。実際そういう人も増えているのではないでしょうか?

直接会うと、なぜ交渉はまとまりやすいのか?

 以前、精神科医で筑波大学教授の斎藤環(たまき)さんと対談したことがあります。斎藤さん曰く、人と直接会うという行為は、本質的に暴力的な行為だというのですね。

 直接対面するということは、相手のテリトリーの中に侵入していく行為でもあるわけです。直接相手と会って話した方が交渉はまとまりやすいと言われているのは、その暴力性によって相手を屈服させているという側面があるからなのです。

 だから皆さんがリモートに慣れて、人と会うのが億劫に感じるというのは、ある意味まともな感覚だということです。

 そう理解した上で、人が本当に分かり合ったり共感したりするためにはやはり直接会う必要があることを認識する必要があります。つまり人間関係とは本質的に暴力性を内在させていて、あえてお互いに一歩踏み込むことで、初めて次の次元の関係性に入ることができるのです。

 例えばある男性がある女性を好きになるとします。何とか相手に自分を認識してもらい、親しくなりたい。LINEやFacebookなどで相手にアプローチし、アピールする。そして実際に会う約束を取りつける。そう言うとなんだかスマートに聞こえるかもしれないけれど、それ自体には本質的に相手のテリトリーに入り込んでいくという暴力的な面があるでしょう。

 でも、一歩踏み込んでいく暴力性がなければ、恋愛関係には発展しません。ここが難しいところでもあって、相手にその気がないのに必死に食らいつくと、ストーカーという立派な犯罪行為になります。