ウクライナのゼレンスキー大統領が昨年12月21日に米国を電撃訪問し、バイデン米大統領と会談した。バイデン氏は共同記者会見で、「(ウクライナと)完全に一致したビジョンを共有している」と述べた。この会談からさかのぼること1カ月ほど前、米国はロシアとある調整を行っていた。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)
ロシアが核兵器を使うのは
二つの場合だけ
ロシアと米国の間には、対話がないと言われています。しかし裏側のチャネルは、思いのほか開かれているようです。それを感じさせたのが、昨年11月14日にトルコの首都アンカラで、米国のバーンズCIA長官とロシアのナルイシキン対外情報局長官が会談したというニュースでした。
昨年2月にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以来、最も高いレベルでの会談です。話の内容は、核兵器の使用をちらつかせるロシアに対して、米国側が「核使用の代償とエスカレートのリスク」を伝えることだったとされます。
ロシアのドクトリンでは、核兵器を使うケースは二つしか想定していません。一つは核による先制攻撃を受けた場合。もう一つは、国家存亡の危機に陥った場合です。米国が「ウクライナに提供した兵器でロシア本土を攻撃させない」とのルールを確約さえすれば、ロシアが核を使う事態は生じません。
会談では、そのルールの再確認が行われたと考えればいいでしょう。この場合のロシア本土とは、その時点で占領していたウクライナ領であるドネツク、ルガンスク、ヘルソン、ザポリージャを除きます。
注目すべき点は、諜報(ちょうほう)機関のトップ同士の会談が明るみに出るのは、誰かの何らかの思惑なくしてはあり得ないことです。私たちのようなインテリジェンスのプロは、米国側から発信されたこの情報の裏を読みます。