株式投資をする人たちの間で大きな支持を集めている話題の1冊が『株トレ――世界一楽しい「一問一答」株の教科書』だ。60問のクイズを答えていくだけで、「株式投資のコツ」や「株の売買タイミング」がつかめる手軽さが人気だ。「チャートを勉強したけど成果が出ない……」。その原因はどこにあるのか。チャートで稼ぐにはどうすれば良いのか。『株トレ』の著者であり、ファンドマネジャーとして2000億円超もの資金を運用してきた経歴を持つ楽天証券・窪田真之氏に話を聞いた。(取材・構成/伊達直太)
株を安値で拾おうとしていませんか?
私たちは日常生活の中で、知らず知らずのうちに「値ごろ感」で買い物をする習慣に染まっています。
例えば、お弁当が3000円で売られていたら、ほとんどの人が「高い」と感じて買おうとはしませんが、500円より安ければ買うことを考えるのではないでしょうか。それは、日常的にコンビニやお弁当屋さんの前を通ることにより、自分の中に「お弁当は500円くらい」という基準が生まれるからです。
株のトレードでは、値ごろ感が負ける原因になりえます。
株価は材料や需給で動くので、ずっと500円だった株が短期間で5000円に急騰することだってありますし、1000円だった株が10円になることも十分にありえるのです。
値ごろ感で株のトレードをしていると、「この株は500円がいいところだ」という固定観念にとらわれてしまいます。そうすると、500円から1000円に上がった時に「高い」と感じて買えなくなったり、「1000円は高すぎる」とすぐに利確してしまいます。5000円まで上がる可能性だってあるのに、上昇トレンドに乗って大きく儲けることができないのです。
1000円で買った株が500円に下がった時も同じです。株で負ける人は自分の買い値にとらわれていることが多く、「この株は1000円が妥当」「今は一時的に下がっているだけ」と思い込みます。そのせいで下落トレンドに飲み込まれているにもかかわらず、損切りできず、損失が大きく膨らむのです。
個人投資家に共通する傾向
個人投資家が値ごろ感で売買していることは、データで明らかになっています。
投資主体別売買動向を見ると、相場が暴落した時に買っているのはだいたい個人投資家であることがわかります。個人投資家には逆張り好きな人が多く、「大きく下がったのだから、ここら辺で反発するはず」という予想で買っていることがわかります。
また、相場の天井で売るのも個人投資家が多い傾向にあります。これも「こんなに上がったんだから、さすがにそろそろ反落するだろう」という逆張りの予想で売っているわけです。
これだけを聞くと、個人投資家が上手いトレードをしているように思うかもしれませんが、実は暴落時に買った株を少し上がったところですぐに売ってしまうのも個人投資家です。そのせいで、せっかく安く買えたお宝のような株を薄利で手放しています。
加えて、せっかく天井で売れたにもかかわらず、少し下がったところで再び買い直しているのも個人投資家です。その後下落が続いても、損切りできずに大きな損を抱えてしまいます。
これでは、利益が小さくて損失が大きいトレードになってしまいます。
買った値段、売った値段は関係ない
なぜこんなトレードをしてしまうのでしょうか。それは、自分の買い値や売り値を強く意識しているからです。
直近安値の300円で上手く買えたとしても、「300円で買った」という事実が「300円以上は割高だ」という思い込みを生み、1000円まで上がるかもしれないチャンスが来ても、400円で売って放棄してしまいます。
高値で売った後、下落時にすぐに買い直すケースも同じです。高値の1000円で売った事実を意識してしまうため、1000円から少し下がると安く感じてしまい、チャートが明らかな下落トレンドを示していても、800円や900円で買い直してしまうのです。
大事なのは買い値でも売り値でもありませんし、値ごろ感でもありません。その株が上昇トレンドにあるのか下落トレンドにあるのかを見極め、トレンドに逆らわないトレードをすることです。
上昇トレンドが続いている間は保有し続け、下落トレンドにある株はすぐさま売らなければいけません。「損切りは早く、益出しは遅く」を徹底すれば、株で儲ける確率を上げることができます。